きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

窮鼠はチーズの夢を見る

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恋に溺れていく2人の男性を描いた水城せとなの人気漫画「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」を、行定勲監督のメガホンにより実写映画化。主人公の大伴恭一役を「関ジャニ∞」の大倉忠義、恭一に思いを寄せる今ヶ瀬渉役を成田凌が演じる。優柔不断な性格から不倫を重ねてきた広告代理店勤務の大伴恭一の前に、卒業以来会う機会のなかった大学の後輩・今ヶ瀬渉が現れる。今ヶ瀬は妻から派遣された浮気調査員として、恭一の不倫を追っていた。不倫の事実を恭一に突きつけた今ヶ瀬は、その事実を隠す条件を提示する。それは「カラダと引き換えに」という耳を疑うものだった。恭一は当然のように拒絶するが、7年間一途に恭一を思い続けてきたという今ヶ瀬のペースに乗せられてしまう。そして、恭一は今ヶ瀬との2人の時間が次第に心地よくなっていく。
(映画.comより)

LGBTという言葉が社会的にも関心を集める昨今。
そんな背景もあってこと映画においてもLGBTを題材とした作品が注目されています。
9月25日に公開された『ミッドナイトスワン』、そしてそれに先駆ける様に公開された本作『窮鼠はチーズの夢を見る』。
当初は6月に公開が予定されていましたが、やはり新型コロナの影響で9月に公開。
結果、同時期にふたつのLGBT題材の映画が上映されるという形になりました。
監督は『ナラタージュ』等リアルな恋愛模様を描いた作品には定評のある行定薫監督。
行定監督によるBL模様は果たして如何なるものであったのかお伝えしていきましょう。

まず、本作全体を覆う空気感が絶妙です。
全編に渡る危険な香りとそこはかとなく漂う緊張感。
それに主演の二人が包み込まれそして物語をリードしていく様な展開です。
大倉忠義演じる恭一という人物。
彼ははじめのうちこそ妻があるものの離婚を切り出されそこから流されるままの恋へ溺れていく。
その相手は成田凌が演じた渉だけではありません。
元々結婚していた中でも不倫をしていた彼。
会社での立ち居振舞いや彼自身のパーソナルな部分等女性からモテるし、彼もまた流されるまま恋に溺れる。
その辺りからもわかる様に彼自身は女性を性の対象としています。
では何故渉とのBLに至るのかその辺りは是非作品をご覧頂きたいところ。
続いて成田凌演じる渉という男。
彼は恭一の大学時代の後輩になるのですが、ある事から再会し、恭一との恋へと走る事になります。
それにしても成田凌さん。
今年は映画で大活躍ですね。
スマホを落としただけなのに』『弥生、三月』、そして『糸』でも存在感を放っておりました。
『弥生、三月』や『糸』での好青年役も良いのですが、個人的には『スマホを落としただけなのに』の二作で見せたサイコパスの様に怪しさを持つキャラクターが絶妙に合っているなと思っています。
本作の渉に関してはめちゃくちゃ色気や可愛さがあって正直、性的嗜好が至ってノーマルな私から見ても抱きたくなる様な色っぽさを感じさせてくれました。(何度も言いますが私はノーマルです・笑)

それでいてこの二人の絡みにいやらしさがないんですよね。
二人がイケメンだからという次元の話しではなくて、全体的にマイルドでいてなおかつ嘘くささや安っぽさがない。
監督を初めとしたスタッフ陣の手腕によるところも当然ありますが、お二人の演技力による部分がかなり大きいかなと思います。
それから恭一の場合、女性との性行為の場面なんかも出てくるのですが、そこも生々しさはなく、映画のいちシーンとして画面におさまっていたりする。
リアルな性の描写は盛り込みつつも醜さや卑猥さはないのでその辺り行定監督のこだわりも感じられたりします。
それでいて印象的なのは恋愛のリアルな面はまざまざと見せつけてくれます。
恋愛を綺麗でキラキラした物という世の基準に一石を投じるかの様な描写から感じるもの。
恋愛には語り尽くせぬ毒々しさもあるし醜さもあるそんなひと癖もふた癖もある物なんだと訴えかけてくる様で胸をえぐられる様な気持ちになります。

それからこの映画全体に言えるのが、キャストの感情を伝える顔とりわけ目の演技に説得力があると言う事です。
映画自体に派手さはないのですが、そういった映画だとセリフが多くなりがちで説明くさい芝居に陥りがち。
しかし、本作の場合目で鑑賞する人へ訴えかけ、作品世界へ誘ってくれるわけです。
目は口ほどに物を言うなんて言いますが、サイレントだけど力強い目力演技がこの作品により深みを与えていたなと感じます。

さて、これまで私は好意的に本作を評してきましたが、好き嫌いはかなり別れる映画だと思います。
というのがストーリー自体が淡々と進み、尚且つ大きな動きがないので合わない人からすると退屈な面があるのも否めません。

しかし、LGBTへの意識の向けかたを考えるとこの上なくわかりやすい内容でしたし、理解を深める点では非常に良い作品だったと思います。

劇場での鑑賞をオススメします!