きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ミッドサマー

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長編デビュー作「ヘレディタリー 継承」が高い評価を集めたアリ・アスター監督の第2作。不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。太陽が沈むことがないその村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心は次第にかき乱されていく。ダニー役を「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピューが演じるほか、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「パターソン」のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールターらが顔をそろえる。
(映画.comより)

グロさ等の噂が先行し、兼ねてから気になっていた作品ですが、ようやく見て参りました。
一言で表せば美しく残酷な映画といったところでしょうか。
ではお話しさせて頂きます。
昨年の『ジョーカー』等が典型的でしたが、いわゆる悲劇と喜劇の表裏を顕著に写し出す作品がこのところの世界の映画界では増えてきている印象です。
『パラサイト』なんかもそうでしたね。
一見すると相反している思わせるものの中に人間的な本質を見いだす様な世界観を作り上げ、見ている人へと問題を提起していく。
見終わった後に何とも言えない重々しさもあるけど同時に不思議な爽快感が芽生えてくる様な作品。
口で言うのは簡単だけどそれを作るのはどれだけ大変な事か製作者の苦労は想像を絶するものがあるでしょう。
この『ミッドサマー』に関して言えば一見ヨーロッパ映画的なお洒落な雰囲気や北欧の美しさが視界に入り込み、それだけで目を楽しませてくれます。
それがあるからこそここで行われる儀式の数々に恐怖を与えさせる。
緊張と緩和の絶妙なバランス。ギャップが大きいからこそ残虐なシーンのスリリングな展開が効果を生み出していくんですよね。

で、本作が舞台となっているのが北欧・スウェーデンのとある村。
文明社会と全く乖離された場所で祝祭の名のもと、世にも残酷な光景が目の前に広がっていくわけです。
さて、この舞台となるホルガ村ですが、森の中の閉鎖的なコミュニティを形成しながら、独自の習慣を守り続けています。
しかし、その一方で暮らす人々の笑顔が不気味だし、自給自足での集団生活なんてのを見るとカルト系集団を思わせる。
彼らを不気味と捉えるかどうか人それぞれなのでしょうが、僕は終始ニヤニヤしながら見てしまったんですよね。
張り詰めた空気の中、急に歌い出したりとか女王の乗った車を村の女達が走りながら引くシーン、子作りの儀式(平たく言えばセッ○スです。)での周囲を裸婦が囲み、奇妙な声を挙げる中、アレをする光景等はシュールな空気を醸し出しており、僕は一人でニヤニヤ…という声を出して大爆笑したいくらいでしたよ(笑)
それから死体をアレするなんてくだりは『キングスマン』一作目でコリン・ファース演じるハリーが人の頭を撃ち抜いた後、満開の花を咲かせるという不謹慎ジョークの極みの様な名(迷?)シーンを思い出させてくれましたね。

で、こんなところにばかり目が行きがちですが、それだとこの映画の本質を見ているとは言えないわけですよ。
この作品。
都会からやってきた若者の集団が研究の為にこのホルガへやって来たのが全ての始まりでした。
彼らは文明の中で生きた、いわば我々は彼らと同じ目線でこのホルガでのトンデモ儀式の数々を目の当たりにするわけです。
彼らの集団に居た少女。
彼女が本作においては最大のキーパーソンです。
元々精神的な疾患を持っていた彼女が最初にショッキングな光景に出くわした時が印象的でして、彼女の聴覚が一時的に失われ、僅かに同行した仲間の声がうっすらと聞こえるのみ。
あの瞬間の彼女のショッキングな心境と同時に目の前で何が起こっているのかわからない、そんな心の動揺をはっきりと伝える非常に効果的な演出だったと思います。
そしてラストシーンにおける彼女の表情も印象深いです。
そしてこの表情から彼女は何を考え、見ている我々は何を思うかそんなメッセージを投げ掛けている様でした。
そのラストで出てくる熊が象徴するものやホルガの村で見られる壁画の意味、やたら出てくる9という数字等々作中では様々なミステリーが盛り込まれています。
ここ近年の映画においてもかなり衝撃的な内容でしたし、余裕があればもう一回見たいと思わせる作品でした。 
例によって劇場鑑賞は時勢的にオススメしにくいですが、映画自体は見て損はない作品です。