きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

老後の資金がありません!

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垣谷美雨の同名ベストセラー小説を「狗神」(2001)以来20年ぶりとなる天海祐希の単独主演作として映画化。家計に無頓着な夫の章、フリーターの娘まゆみ、大学生の息子・勇人と暮らす平凡な主婦・後藤篤子は、あこがれのブランドバッグも我慢して、夫の給料と彼女がパートで稼いだお金をやり繰りし、コツコツと老後の資金を貯めてきた。しかし、亡くなった舅(しゅうと)の葬式代、パートの突然の解雇、娘の結婚相手が地方実業家の御曹司で豪華な結婚式を折半で負担、さらには夫の会社が倒産と、節約して貯めた老後の資金を目減りさせる出来事が次々と降りかかる。そんな中、章の妹・志津子とのやりとりの中で、篤子は夫の母・芳乃を引き取ることを口走ってしまう。芳乃を加えた生活がスタートするが、芳乃の奔放なお金の使い方で予期せぬ出費がかさみ、篤子はさらなる窮地に立たされてしまう。監督は「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲。

(映画・comより)

天海祐希さんと言えば理想の上司ランキングで常に上位にランクインされる等バリバリ仕事をこなすデキる女性イメージが特に強いイメージです。これまでの映画やドラマの役柄がそのイメージに反映されているわけですが、時に庶民的な役を演じても板につくんですよね。本作の場合は正に庶民も庶民、近所を歩いていても何らおかしくない主婦なんですよね。しかもタイトルや作品概要にもある様に金策に翻弄されるという経済的にも超裕福というわけでもない。旦那が仕事に出ている間は家事とパートに時間を費やし、定期的に通うヨガスクールでのひと時を楽しむそんなライフスタイルです。

監督は『こんな夜更けにバナナかよ いとしき実話』の前田哲。今まさに大ヒット中の『そして、バトンは渡された』も手掛けています。ちなみに本作とは公開日が一日違い。コロナ禍での興行をおよぼしたのは確かですが、いずれにしても精力的に作品を作っているのが伺えます。

それにしても驚いたのは監督の振り幅の広さ!『そしてバトンは、』に関しては先月紹介しましたが、伏線の張り方が秀逸でそれを功奏させての怒涛のラストシーン。正直、私の涙腺が緩んでしまったのは同作レビュー内でお伝えしました。一転して本作はただただ笑いに振り切ってる。ともすれば重い内容になりそうなテーマですが、ひたすら笑いに転じさせる事で決してヘビーな気持ちにはさせない。それでいて大事なポイントは抑えているんですよ!前田監督ここに来て良作を生み出してきています。これから本格的にヒットメーカーになるのではないでしょうか。

さて、私が鑑賞したのは11月のとある平日。MOVIX日吉津でしたが、私以外はほぼ高齢の人生の大先輩方。平日というのもありますが、テーマがテーマだけに、という所でしょう。客層的には山田洋次監督作や吉永小百合さん主演作のそれに近かったです(笑)

で、正直年配者向けなのかな〜なんて初めは身構えていましたが、ところがどっこいですよ!全体的に作品のテンポもよく笑いだって決してベタではない。それでいてしっかりとツボを刺激してくれるギャグは悪くなかったです。前方に座っていたおばあちゃんも楽しそうに笑ってらっしゃったのが印象的です。小ネタが活きてたんですよね。草笛光子さんと天海祐希さんによる宝塚ネタや往年の『いじわるばあさん』を思わせる様なドタバタ感もあれば佐々木健介北斗晶夫妻もコメディリリーフぶりも楽しませて頂きました!

終活とか老後のライフスタイルはもちろんですが、それ以外にもニュースを賑わす様なあらゆる社会問題も盛り込んでいるんですよ。会社の倒産やリストラ、中高年の雇用、シングルマザー、年金不正受給、特殊詐欺等等。ある日突然、一家の大黒柱である主人が失業したら…なんて絶望的なシチュエーションなんだけど、そんな状況すらも明るく描いてくれるんです。

そして最終的には人間としての真の幸せとは何か?を帰着点にしています。決して俗物に流されない生き方を是とする考えを提示する辺りはどこか『ノマドランド』にも通じる様なある意味今の時代を象徴しているのかもしれませんね。

全体的には飽きる事なく軽快に展開され個人的には満足度高めではありますが、一方では気になる点もあるので触れておきますね。

詳しくは言えませんが、自分らしく生きるを帰着点にしてるのにその前にブランド物のバッグ云々の描写はどうなのかな?って思っちよいましたね。確かにこれまでお金や家族に振り回された篤子のご褒美何より綺麗な天海祐希を写したいという狙いがあったのかもしれませんが、『ノマドランド』的なラストで締めるのであればメッセージ性が弱くなってしまった感がありましたね。

それからコメディですし、バラエティ寄りのタレントさんや芸人さんを起用するのは作風上、理解出来なくはないですが、あの人もこの人も…とやり過ぎた結果、画面がうるさくなり過ぎた感は否めません。特にとあるパーティーのシーンが顕著でしたかね。カラオケの楽曲はこの映画の主要な客層に如何にも受ける様な選曲でして、昭和の名曲好きな僕としてはニヤリ顔でしたけどね(笑)

と多少の不満はありましたけど、十分楽しませて頂きましたよ!若い人にも見て頂きたい作品です!

オススメです!

エターナルズ

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解説

アベンジャーズ」シリーズをはじめとしたマーベル・シネマティック・ユニバースMCU)で知られるマーベル・スタジオが送り出すヒーローアクション大作。太古から人類を見守ってきた「エターナルズ」と呼ばれる者たちの活躍を、「ノマドランド」でアカデミー賞を受賞したクロエ・ジャオ監督が描く。「アベンジャーズ エンドゲーム」後の世界を舞台に、これまで人知れず人類を守ってきたエターナルズが姿を現し、未曽有の危機に立ち向かう。遙かな昔から地球に存在し、7000年もの間、陰から人類を見守ってきたエターナルズ。最凶最悪の敵サノスによって半分が消滅させられた全宇宙の生命は、アベンジャーズの戦いによって復活したが、その時の強大なエネルギーによって新たな脅威が誕生し、地球に迫っていた。その脅威に立ち向かうべく、これまで身を潜めていたエターナルズが再び集結する。10年ぶりのアクション作品への出演となるアンジェリーナ・ジョリーをはじめ、「クレイジー・リッチ!」のジェンマ・チェン、「ゲーム・オブ・スローンズ」のリチャード・マッデンキット・ハリントン、これがハリウッドデビューとなる「新感染 ファイナル・エクスプレス」のマ・ドンソクらが出演。(映画.comより)

フェイズ4に突入後も勢力的に作品を出し続けるMCUの最新作。『ブラック・ウィドウ』も『シャン・チー』も良い意味で軽快でわかりやすい内容で楽しませて頂いたワタクシとしては本作も勿論外せないと思い、鑑賞して参りました!そして本作の監督は『ノマドランド』でアカデミー賞を受賞したクロエ・ジャオ監督。『ノマドランド』のあの重厚な作風のイメージが強い為、それがMCU作品でどの様な色合いになるのか個人的には大変興味深かったです。

それがですね〜、これまでのMCU作品には見られない様な独創性の高い作風となっておりました。

では解説していきましょう。これまでのMCU作品と言えば先述の二作品もそうであった様に全体的には軽快なノリで爽快なアクションに何ならナンセンスなギャグもあるし、耳馴染みのあるヒット曲をBGMに配して割と気楽に見れる様な作品が多かったイメージです。全編に渡って重厚な作風と言えば『アベンジャーズ』シリーズくらいですよ。ところが本作の場合、全体的に暗いいや悪い意味ではなくてですよ。背景等を含めて配色で見ても決してカラフルではないんですよね、MCUと言うよりDCのそれに近い。更に言えばスーパーマンバットマン等DCヒーローの名前すら出てくるくらいですもん。

でもそれが明らかにこれまでのMCU作品との差別化を見せている様で私としてはアリかなと思いました。

そして何と言っても『ノマドランド』がそうであった様に景色がとにかくキレイ!とりわけ海岸で撮影したシーンが特に多かったのですが、この海岸は非常にクリアで見応えがありましたね!

また、キャラクターの特性等にも特徴が見られましたね!主要なメンバーが10人居るわけですが、人種も超えてるし、障害者だって居る。多様性が重視される現代らしくLGBTQに対してのアプローチもしっかりなされていました。本作の予告編ではBTSの楽曲が起用されていましたが、アジア系のアーティストがMCUの楽曲に関わるのは本作が初めてであり、キャストだってアジア系が特に充実していた印象で新時代ならではのMCUスタイルを感じさせてくれました。

そしてストーリーに関してですが、これはズバリ!神話です。日本で言えば『古事記』に出てくる神様が何千年にも渡って現世に生き続け、人間達と共生していると言えばイメージしやすいのかもしれません。そしてこれが神である彼らの目線から見た人間の姿がはっきりと映し出されている。感情を持つ生物としての人間像が見て取れる一方、身勝手でこれまでにも過ちを繰り返してきた悲しい歴史も描かれている。戦争の延長に行なってきた大虐殺そして脅威の核兵器を使用してきた人類の過ち。正直、MCUで1945年8月の広島が出てくるなんて思いもしませんでしたよ。しかし、遠くにはっきり見て取れる現在の原爆ドームそして焦土と化した広島の街を忠実に再現する事でその恐ろしさと残酷なまでの過去の過ちの歴史を非常に生々しく映し出しています。また、彼らの視点から見た人間の姿というのが本作の肝になってるかと思います。そこはドキュメンタリックな作風に定評のあるクロエ監督の真骨頂でもありますね。

さて、そんな本作ではありますが、最大のポイントをお伝えしておきます。先述の様に人種も身体的特徴の壁を超えてひとつになる彼らのチームプレイであり、その調和です。正直、10人も居れば衝突もあればまとまりがぐらつく事だってあるでしょう。事実そういった描写もあるし、それによって命を落とすなんて事もある。しかし、それでも彼らがひとつになり、共に戦う場面は見応えがあったと思います。

とそんなフェイズ4にしてMCUの新基軸を見せた感のある『エターナルズ』ではありますが、正直好き嫌いがはっきり分かれる作品でもあったかな。というのが先述の様にわかりやすくテンポの良いこれまでのMCU作品と違って会話が多く、流れも緩やか。更にその流れで150分強展開されるというこの長尺にどれだけの人が没入出来るかというところでしょうか。私は比較的楽しめましたが、人によるのかなと思いましたね。

そこだけ伝えたところでまとめます。フェイズ4に突入してこれまで違う手法で作品を作り上げたMCU。次作を示唆する様なシーンもありましたし、また本作が他の作品でどの様な形で絡んでいくのかが個人的には楽しみです!

今後のMCUに更なる期待を込めて今回は終了。

オススメです!

劇場版きのう何食べた?

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よしながふみの人気漫画を西島秀俊内野聖陽の主演でドラマ化して話題となった「きのう何食べた?」を、ドラマ版のキャスト&スタッフで映画化した劇場版。雇われ弁護士の筧史朗(シロさん)とその恋人で美容師の矢吹賢二(ケンジ)にとって、2人でとる夕食の時間が日々の大切なひとときとなっている。ある日、史朗の提案で、賢二の誕生日プレゼントとして京都旅行に行くことに。賢二は京都を満喫していたが、道中に史朗からショックな話を切り出されてしまう。この京都旅行をきっかけに、2人はお互いの心の内を明かすことができなくなってしまい……。シロさん役の西島、ケンジ役の内野をはじめ、山本耕史磯村勇斗マキタスポーツ梶芽衣子らドラマ版のキャスト陣に加え、「SixTONES」の松村北斗が出演。 

(映画・comより)

あくまで僕のイメージなんですが、グルメと映画というと何となく相性があまり良くないイメージがありまして、グルメを題材にした映画で大ヒットした作品って何かあったかな?なんて思っちゃいます。確かにありますよ、これまでにも多くの作品が。ただ、如何に美味しそうな料理が出てもそれを映画館のスクリーンで見たいかと言うとう〜んなんて唸っちゃいます。

ところがそんな偏屈な僕の思いなんてどうでもよくて現在大ヒット中なのが、この『きのう何食べた?』です。元々はテレビ東京系の深夜ドラマ。ドラマの劇場版は数あれど何故この映画がヒットしているのかこの目で確かめたくて、見て参りました!

元々はドラマではあるものの、放送時間は40分程度のショートドラマという事でこれが果たして約二時間に渡る映画との相性はどうなのか?途中で中弛みする事はないのか?心配はありましたが、これは杞憂でしたね。

結論から言いますが、非常に脚本がよく出来ていた。決して派手なシーンはないものの、日常の延長に居る様な二人の男性カップルを軸に料理と人生をテーマにした様な内容。タイプは違いますが、『かもめ食堂』の様な美味しそうな料理と味わい深い人間模様に特徴のある作品だと思いました。

ちなみに私はドラマにも原作にも触れていません。しかし、鑑賞してすぐにキャラクターや物語の設定は理解出来ました。つまり、一見さんにも大変優しい作りになっていたとお伝えしておきましょう。

弁護士ではあるものの自分で事務所を構えているわけではないいわゆる雇われの弁護士西島秀俊演じるシロさん、そして同じく自らサロンを経営してはいない美容師である内野聖陽演じるケンジ。この二人の男性カップルが同じ食卓を囲みながら愛を育んでいくストーリーです。

LGBTという言葉がすっかり馴染んだ感のある昨今において中年二人のカップルのやり取りに思わず笑いが溢れます。正直、ドラマを見ずに本作に触れた僕としては冒頭の内野聖陽さんのいわゆるオネエ言葉にいかにもなありきたりなキャラ設定だななんて顔をしかめてしまいまさたが、違うんですね。あくまでシロさんと二人で居る時のキャラであり、職場や外の世界ではまた違う。よくよく見れば細かいキャラ付けされてるんですよ。

そして二人で行く京都旅行。京都に馴染み深い私としては、二人が行くうどん屋さんのカレーうどんがめちゃくちゃ美味そうでどこのお店か気になっちゃいましたよ。そしてそんな京都旅行もそこそこにその後は終始、二人を軸にしたストーリー展開。

あわやの二股か?とか中年ならではの人生の岐路についての描写、はたまた肉親との関係等が描かれます。

そして何と言っても出てくる料理のまぁ美味しそうな事美味しそうな事。あくまで料理が軸になってるわけだからその料理に写し方には相当なこだわりが感じられましたし、何より高級料理とかではなく、誰でも家庭で手軽に作れそうなんですよね。だから料理が好きな人が見たらレシピが欲しくなるかもしれない。ちなみに僕はハーゲンダッツを載せたアップルトーストと田中美佐子さんが作ってた肉料理が食べたかったです(笑)

また、美容師のケンジが勤める美容院でのとあるカップルの描写を入れる事でゲイカップルと違う男女カップルならではの恋愛の機微が感じられた一方、弁護士のシロさんのパートではホームレスの殺人事件や冤罪について等別テーマが盛り込まれておりました。

また、この二人はかなりのプラトニックな関係なんですが、僕はこれはこれで良かったかななんて思ってます。二人を繋ぐものは生々しい性行為ではなく、結局は料理なんですね。二人で食卓を囲み美味しい料理を口にする。それ以上に特別な物は求めないんだけど、実はこれが究極の心の繋がりなんですよ。で、これは何も同性カップルに限った話しじゃなくて異性であっても結局同じなのではないでしょうか。セックスはもちろん大事なんだけど、本当にカップルを結びつけるものは結局はお互いの心。それがこの二人の場合は料理であり、また違うカップルには違ったそれがあり。この映画全体からはそういう普遍的なテーマが描かれている様に思いました。

また、中年ならではのテーマとしては先述の社会的立場の岐路という点もそうだし、病気というものもありましたね。お年柄健康診断で何かが見つかってもおかしくない。それを気遣うお互いの様子も印象的でしたし、何かがあった際に思いやれる存在の大切さなんかもこの映画からは感じられる事が出来ました。

結局は美味しい料理と大切な人。これが何より人生を豊かにさせてくれるんですね。


美味しい映画を楽しませて頂きました!

ごちそうさま!

リスペクト

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ドリームガールズ」でアカデミー助演女優賞受賞し、歌手としても第51回グラミー賞を受賞したジェニファー・ハドソンが、ソウルの女王アレサ・フランクリンの半生を演じた伝記ドラマ。少女の頃から、その抜群の歌唱力で天才と称されたアレサは、ショービズ界でスターとしての成功を収めた。しかし、彼女の成功の裏には、尊敬する父、愛する夫からの束縛や裏切りがあった。すべてを捨て、彼女自身の力で生きていく覚悟を決めたアレサの魂の叫びを込めた圧倒的な歌声が、世界中を歓喜と興奮で包み込んでいく。アレサ本人から生前に指名されたハドソンがアレサ役を演じるほか、フォレスト・ウィテカーマーロン・ウェイアンズメアリー・J・ブライジらが顔をそろえる。

(映画.comより)

まずは一言。日本国内の動員ランキングでは初登場10位。興行収入も伸びていない…ってどういう事よ!こういう映画こそ多くの人に見て欲しいのにさっ!

まぁ、アレサフランクリンが日本での馴染みが薄いというのも確かにあります。2018年に他界したのですが、その時のニュースで何となく知ったなんて人が多くて楽曲自体を聴いた事がないという人も多いのかもしれません。

しかし、本国.米国ではソウルの女王として国民的知名度があり、日本の主にR&B系シンガーには多大な影響を与えたアーティストです。私は…というと大学時代にめちゃくちゃソウルやR&Bが好きな友人がおりまして、彼からベスト盤を借りて聴いたものです。何となく聴いた事ある様な曲も入っていたりして「これってアレサフランクリンが歌ってたのか〜」なんてその時に知ったりもしましたね。

そんなアレサ・フランクリンの生涯って実は僕自身よく知らなかったのでこの映画を機に、と公開前から楽しみにしていた作品です。

アレサ・フランクリンを演じたのはジェニファー・ハドソン。『ドリーム・ガールズ』でアカデミー助演女優賞、最近では『キャッツ』でも圧倒な歌唱力を披露していたのも記憶に新しいところ。また、歌手としてもグラミー賞を受賞していたりと多才な方ですよね。生前のアレサがご指名を受けてのキャスティング。これは悪くなるわけがありません。

幼少期から30歳になり、ショービジネス界の頂点に君臨するまでの半生を二時間半に渡って描き出す伝記映画。ミュージシャンの伝記映画数あれど記録にも記憶にも残った近年の作品としては『ボヘミアン・ラプソディ』があるでしょう。

クイーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーの若かりし頃から音楽界の頂点に立つも病に冒されていくその過程をドラマチックに仕上げていました。ストーリーにも深みがあり、それが故にラストのライブエイドのシーンに心震えたなんて方も多いのではないでしょうか。そしてそこには時代を彩ったクイーンの名曲が…とそう、そこなんですよ!元々日本でも人気の高いクイーンだからこそ熱心なファンではなくとも知ってる曲はゴロゴロあるわけです。

ところがアレサの場合、日本では先述の様にあまりポピュラーな存在ではなく、コアな音楽ファンからの支持を得ている存在。それ故に劇中で使用される楽曲も馴染みが薄いかもしれません。

でもね〜、例え曲を知らなくとも楽しめます!何だったらこの映画を見てからアレサの音楽に直接触れるいわばアレサ・フランクリン入門編としても最適な映画かと思います。ソウルフルで伸びやかな歌声、会場に詰めかけたオーディエンスの前での圧巻のパフォーマンスは音楽映画としての矜持を感じさせてくれます!そしてそれを表現するのがジェニファー・ハドソンです!彼女は正に若き日のアレサが憑依しているかの様な演技と表現力で見ている人を魅了させてくれます!生前のアレサが指名しただけの事はある!

そして彼女を取り巻く不遇な生い立ちであり、華やかなスポットライトを浴びる一方でのアルコール依存症に陥る生々しい描写も映し出しています。また、1960年代のアメリカ社会を取り巻く人種差別問題の実態であったり、一アーティストの伝記に止まらない様々なテーマが内包された作品でもあります。 

更にアレサを代表する名曲の数々が生まれた背景にも注目したいところ。旦那からの束縛やDVまた、アルコール依存症等華々しいステージの上で繰り広げる楽曲には彼女の重い私生活が背景にある事がよくわかります。字幕版では歌詞が表示されるのですが、その前に描かれるエピソードを見た後だからこそよりリアルに感じられるんですよね。

学生時代に件の友人から借りたベスト盤を歌詞の対訳を見ずに聴いていた自分としてはかなり衝撃でした。

しかし、そんなこんなを踏まえた上で見るラストシーンはやっぱり良かった!彼女は歌うべくして生まれた歌姫である事が心から感じられたライブシーンでした!

しかし、それだけではありません!エンドロールにかけて在りし日のアレサ・フランクリンご本人の映像が流れ、この劇中以後のアレサの偉業をテロップで紹介。彼女が如何に偉大なアーティストであったかをここでもよく知る事が出来ました。

正直、僕はベスト盤で少し聴いた事がある程度のにわかです。ソウルやR&Bをドップリと聴いてるコアな音楽好きだとまた違った印象もあるのでしょうね。

でも何度も言いますが、アレサ・フランクリンをよく知らなくとも純粋に映画作品として楽しめる内容です!

オススメです!

そして、バトンは渡された

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第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名ベストセラー小説を、永野芽郁田中圭石原さとみの共演で映画化。血のつながらない親の間をリレーされ、これまで4回も名字が変わった優子。現在は料理上手な義理の父・森宮さんと2人で暮らす彼女は、将来のことや友だちのことなど様々な悩みを抱えながら、卒業式にピアノで演奏する「旅立ちの日に」を猛特訓する日々を送っていた。一方、夫を何度も変えながら自由奔放に生きる梨花は、泣き虫な娘みぃたんに精いっぱいの愛情を注いでいたが、ある日突然、娘を残して姿を消してしまう。主人公・優子を永野、血のつながらない父・森宮さんを田中、魔性の女・梨花を石原がそれぞれ演じる。監督は「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲。

(映画・com)

邦画でよくありがちな予告と言えば泣きをウリにするものです。「この映画泣けますよ〜」と大々的に煽ってくるやつですね。いわゆるコアな映画好き程そのテの予告を見るとネガティブに捉えがちでかく言う私もその一人です。ただ、それでも気になり、見たところ感極まって大号泣なんて事もありました。『君の膵臓をたべたい」なんかがそうでしたね。そういう事考えたらひねくれてる様ですが、案外ピュアなんですよ僕は(笑)

だからこそネットの誹謗中傷を見ると傷付くし、番組を挙げて抗議もするのです…ってだからもういいっちゅ〜の。

さて今回紹介する『そして、バトンは渡された』。これまた見た人の92%が泣いたと泣き煽り予告を何度となく目にして、ぶっちゃけて言えば若い女性を対象にした如何にもなお涙頂戴ものかななんて斜に構えておりました。しかし、しかしですよ!鑑賞する前の俺に言いたい!「もっと素直になれよ。」と。

複雑な事情を抱える永野芽郁が演じた優子。いつも無理した笑顔でその場をやり切り、そんな彼女に不快感を示すクラスメイト達。直接的にいじめられているわけではないんだけど、クラス内では浮いてしまってます。義理の父である田中圭演じる森宮さんとチグハグなんだけど、不器用なりにもささやかに暮らしています。

一方、石原さとみ演じる自由奔放な女性・梨花。娘のみぃたんには愛情をいっぱい振り撒きながらも常に女性としての幸せも追い求めています。

まるで別々の二組のシングルファーザーと娘、シングルマザーと幼い娘を中心にそのささやかな暮らしをフォーカスしていきます。

この流れを見ると全く無関係な二組が織りなす群像劇ともすればオムニバス作品なのかとすら思わせてくれます。しかし、やがてこの二組のストーリーがひとつに重なってくるんですね。そしてそれまでにいくつもの伏線を張り、そしてスマートな流れで結びつける辺りの手法は実にお見事と唸っちゃいました。

また、ところどころでの演出も映画として実に滑らかで楽しませて頂きました。その一例なんですが、梨花とみぃたん、更に大森南朋演じる実の父親が遊園地へ行く場面があります。親子三人で楽しい時間を過ごすのですが、父親が衝撃的な告白をします。その瞬間、まるど時が止まった様に三人は静止、しかしカメラは彼らを俯瞰的に捕え、まるで遠くで聴こえているかの様なメリーゴーランドの音だけが流れます。実際はメリーゴーランドの場所からさほど離れてはいないのですが、彼らの心理的な描写をあくまで声を使わずに伝えるそして確実に見ている人の心にも響く様な非常に効果のある演出だと思いました。

また、本作で面白かったのは自由な生き方とか本当に自分がやりたい事は?をさり気ない形で提示して見せた点でしょうか。

料理好き優子の進路は料理人になる事。そして調理の専門学校を卒業後、夢を実現してレストランの料理人となります。しかし、伝統を重んじる一流レストランの水が合わず、彼女は馴染みの定食屋さんでバイトをします。プレッシャーから解放された彼女はその定食屋の水が合っており、先述のレストランの時とは違うリラックスした表情を見せています。一方、岡田健史が演じた彼女の恋人。ピアニストとしての将来を嘱望されながらも、彼は音楽の道を選びません。音楽家ロッシーニの生き方が軸になっているのですが、そこに影響を受けた彼ならではの選択があったのです。

自分語りになり、恐縮ですが、私は関西の大手FM局でDJをしたく、事務所に入りレッスンを受け、オーディションを何度となく受けましたが、良い結果は得られませんでした。結果として山陰のコミュニティFMで使って頂き、今に至るわけですが、例え多少の批判を受けてもこの番組をやらせて頂き、他にも歴史を語り、時には事件や社会問題を話し、広く発信する事が出来ている。先述の様な大手局では恐らく通りにくい企画も採用して頂き、自由な表現の場を与えて頂いている。そんな事を考えると規模の大小やブランドが全てではなく、本人の幸福度はまた別の所にあるなんて思わせてくれました。

なんて映画から話しが反れましたので、戻しますね。

本作のキャストの皆さんには非常に魅了されました。その中でも特に心を持ってかれたのは石原さとみさんでした!この映画なんですが、この石原さとみさんが演じた梨花をどの様に見るかで全然印象が変わってくるかと思うんですよ。正直、みぃたんに接する梨花には同調出来ないんですよ。子供を着飾る事ばかりにお金をかけてちゃんとした教育が出来てる様に思えない。この辺りなんか見てたら虐待やネグレクトの問題を提起する様な社会派作品かな?なんて思いましたもん。更に自分が労働してお金を得るよりお金を持ってそうな再婚相手を見つける事に奔走する。彼女が美人で要領が良いからこそ出来る芸当ですけど、この辺りなんかは僕正直見ていてイラッとしてましたよ(笑)でもね〜、最後にそれが明かされてからの怒涛の展開にはやられましたね。この脚本や見せ方も当然素晴らしいのですが、石原さとみさんの演技があってこそだなと思いましたよ!

正直、僕は原作も読まず予備知識なしでこの作品は見ました!でも結果的にはそれで大正解でしたね!今年見た映画…少なくとも邦画の中ではかなりの良作だと思います。

是非劇場でご覧下さい!

DUNE/砂の惑星



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ブレードランナー2049」「メッセージ」のドゥニ・ビルヌーブ監督が、かつてデビッド・リンチ監督によって映画化もされたフランク・ハーバートSF小説の古典を新たに映画化したSFスペクタクルアドベンチャー。人類が地球以外の惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた西暦1万190年、1つの惑星を1つの大領家が治める厳格な身分制度が敷かれる中、レト・アトレイデス公爵は通称デューンと呼ばれる砂漠の惑星アラキスを治めることになった。アラキスは抗老化作用を持つ香料メランジの唯一の生産地であるため、アトレイデス家に莫大な利益をもたらすはずだった。しかし、デューンに乗り込んだレト公爵を待っていたのはメランジの採掘権を持つハルコンネン家と皇帝が結託した陰謀だった。やがてレト公爵は殺され、妻のジェシカと息子のポールも命を狙われることなる。主人公となるポール役を「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメが務めるほか、「スパイダーマン」シリーズのゼンデイヤ、「アクアマン」のジェイソン・モモアハビエル・バルデムジョシュ・ブローリンオスカー・アイザックレベッカ・ファーガソンら豪華キャストが集結した。

(映画・comより)

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』、『燃えよ剣』とこのところ、長尺の大作を扱う機会が多いですが、本作の上映時間は155分。「そんなに時間取れねぇよ〜」という方、何とか時間を作って下さい(笑)

さて、そんな超大作ですが、僕はこの映画に関してはとにかく予告編の映像に惹かれましたね〜!スケールの大きな砂漠その中で展開される圧倒的な映像表現。「むむっ、これは見ておきたい!」と。原作の小説も知らないし、1984年に製作された映画も見た事がない。しかし、一見の価値はあるかなと感じ、見て参りました!尚、お伝えすると概要にもあります様に遥か未来でのお話し。SFというジャンルになりますので限りなく『スター・ウォーズ』のそれを思わせるものがあります。しかし、『スター・ウォーズ』よりも本作の原作は古く『スター・ウォーズ』はかなりインスパイアされているそうです。他にも『アバター』更に日本では『風の谷のナウシカ』にもヒントを与えた作品との事。日本では知名度が低いのでそれらの事を頭に入れてから鑑賞すると良いかもしれません。

さて、今ではすっかりSFの監督として定着した感があるドゥニ・ビルヌーブ監督。『ブレードランナー』のリメイク『ブレードランナー2049』から早4年。前作が映画ファンから高い評価を受けてこのSFの古典名作をどの様に作り上げたのかが注目ポイントです。

はっきり言いますね。

本作ほど好き嫌いがはっきり分かれる作品もないのでは?というのが僕の印象です。というのがSFというジャンルに耐性がないとストーリーがさっぱり理解出来ない。ちんぷんかんぷんなまま二時間半ひたすら尿意と腰痛と戦うだけになってしまいます。そもそもこの映画ならではの専門用語が頻発するんですよ。更には惑星、人物、物理的な事象などなどに別名があってそれらの説明すらない。頭で整理している内に次の展開に進んでいたりして、置いてけぼりになってしまいます。いっそのこと、人物に関しては『アクアマン』、『グレイテスト・ショーマン』、『アメイジングスパイダーマン』みたいにしてくれりゃ覚えやすかったのに…てこれキャストの過去作か(笑)

更に言えば予告編で見たあのダイナミックな映像を期待して見たんだけど、ここに至るまでがまぁ、長い!

前半でこの作品の設定やら各キャラクターの説明シーンが続くんだけど、そこにメチャクチャ時間を割くんですよ、しかもこの辺り非常に淡々と進んでいき、テンポも悪い。いや、あの独特な間が良いという考え方もあるか。それでいて先述の様に設定を理解するのに脳内での整理が追いつかずで、途中で不覚にも眠くなってしまいました…。例えて言うならビジネス用語を羅列する意識高い系と会話をしていてマウントを取られてる気分?それが僕のイメージです(笑)

後、個人的に違和感を感じたのが何千年も先の未来の話しなのに戦い方が中世の騎士の様なナイフみたいな剣ってとこ。身につけてる鎧なんかも『ドラクエ』の鎖かたびらかっ?てくらい薄手なんですよ。身を守る気ねぇだろ?みたいなね(笑)そこはライトセーバーみたいなヤツ使お(笑)

でもね〜、中盤からは俄然引き込まれましたよ!予告編で見てた迫力ある映像ってここで用意されてたんだね!砂の惑星ですから、当然砂漠が舞台となるわけですが、この砂漠の映像が画面いっぱいに広がった時の高揚感は確かにありましたね。僕が好きな映画に『ハムナプトラ』というシリーズ作があります。エジプトの広大な砂漠を舞台に繰り広げるアクション作ですが、それを彷彿とさせてくれましたね。アクアマンやグレイテスト・ショーマンも見せ場がありましたよ、ってせめてキャスト名で言え(笑)あ、ジェイソン・モモアゼンデイヤレベッカ・フォーガソンね。それはそうとレベッカ・フォーガソン、年食ってる扱いひどくね。まず、主人公ポールのティモシー・シャラメの母親という役どころも違う様な…。

さて、これは私が感じた事。本作は何度も言う様に遥か未来の宇宙戦争を描いていますが、もっとミニマムな視点に変えると地球上での国と国の利権をかけた紛争をイメージしてみました。とりわけ砂漠を有する国という点で中東辺りの石油利権を取り巻くそれに近いかなと。惑星・アラキスで採取される香料のメランジこそまさに石油であり、ハルコンネン家と皇帝は中東諸国のテロリストはたまたアメリカ?まぁ、あくまで憶測に過ぎないのですが、そんな視点で見ると中東の国際情勢も見えてくる…かもしれない。あまり自信がありません(笑)

尚、本作は二部作となっており、次作も製作予定だそうです。はっきり言って本作だけ見ても不明点が多々あります。次作を見たらもしかしたら多少はわかってくるのでしょうか?

てな感じで非常にモヤッとした作品であるのは間違いありません!しかし、先述の様に広大な砂漠と迫力ある映像表現に関しては太鼓判を推します!

是非ご覧下さい!

燃えよ剣

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新選組副長・土方歳三の生涯を描き、過去に映画化、ドラマ化もされてきた司馬遼太郎歴史小説を、「関ヶ原」の原田眞人監督&岡田准一主演の再タッグで新たに映画化。江戸時代末期。黒船の来航により、外国から日本を守るため幕府の権力を回復させようとする佐幕派と、天皇を中心にした新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった。武州多摩の農家に生まれた土方歳三は「武士になりたい」という思いで、近藤勇沖田総司ら同志とともに京都へ向かう。芹沢鴨を局長に、徳川幕府の後ろ盾で新選組を結成し、土方は「鬼の副長」と恐れられながら、討幕派の制圧のため京都の町で活躍を見せるが……。土方歳三役の岡田のほか、土方と生涯愛を貫くお雪役を柴咲コウ近藤勇役を鈴木亮平沖田総司役を山田涼介、芹沢鴨役を伊藤英明がそれぞれ演じる。

(映画.comより)

新選組。日本史の教科書にのる事はあまりないのですが、非常に人気の高い武士団であるのはご存知の通り。そもそも徳川幕府につき、戊辰戦争に散った彼らは何故ここまで人気が高いのでしょう。薩長を中心とした新政府側にとっては逆賊であり、何なら攘夷運動を取り締まっていた頃だってならず者の集団なんですよ。明治の後期に新選組の残党であった永倉新八が北海道・小樽の地元新聞に連載し、新選組の名誉回復に尽力したのを契機に以後、舞台・小説・映画に漫画とあらゆる媒体で新選組を題材にしたものが作られ幅広い世代に親しまれてきたわけですが、最大の功労者と言えば司馬遼太郎ではないでしょうか。そんな司馬遼太郎の原作『燃えよ剣』が遂に公開となりました。

原田眞人監督と言えばこれまで太平洋戦争終戦の日を扱った『日本のいちばん長い日』、更に天下分け目の関ヶ原の戦いを描いた司馬遼太郎原作『関ヶ原』等でメガホンを取ってきました。これらはいずれも日本の歴史においての転換期を描いた作品です。そして『燃えよ剣』。これまた幕末から明治へと移り変わる日本の大きな激動期を描いたものです。

そして主人公の土方歳三を演じたのは『関ヶ原』で石田三成を演じた岡田准一。この上ないキャスティングだと思います。面白いのは石田三成にしろ、土方歳三の居た新選組にしろ、勝者ではないところ。敗れた者の視点で描く幕末の一大エンターテイメントとなります。

近藤勇役は私的には『孤狼の血 LEVEL2』での怪演があまりに衝撃的かつ記憶にも新しい鈴木亮平さんです。鈴木亮平さんと言えば2018年の大河ドラマ西郷どん』で西郷隆盛を演じていました。西郷隆盛新選組では全く対極の位置にいた両者ですよ。その辺りはかなり葛藤があった様でその辺りはパンフレットでご本人のインタビューが掲載されています。しかし、そんな迷いはあったものの、結果としてここまでらしい近藤勇もない位見事に役にハマっていました!武骨な佇まいと胆力の強さ、今まで色んな俳優さんが演じてきた近藤勇の中でも個人的にはかなり好きな近藤勇像になりました!

沖田総司役は山田涼介。実際の沖田もかなりの美男子だが、剣術の腕前は光るものがあり、その一方で病弱で若くして亡くなってしまう。この映画における沖田では土方を兄の様に慕いつつしかし、池田屋事件の辺りから病に冒されそして病床に伏していく。イケメン剣士が大活躍するも次第に弱っていく過程を山田涼介の演技が見せてくれます。この辺りは女性の方は涙腺緩みやすいじゃないかな?

そして土方と恋仲になるお雪を柴咲コウが演じます。彼女は本作のメインキャスト中、唯一の架空のキャラクター。実を言うと僕は本作を見る前彼女のキャスティングに不安があったんですよ。と言うのが、『関ヶ原』の時の有村架純さんが演じたくのいちの存在。もちろん有村架純さんに非はないですが、戦国末期の男達の雌雄を賭けた決戦を中心に見たい僕としては、三成との恋愛エピソードやらがどうにもノイジーだったんですよ。しかもそこに尺をかなり使っていたのが引っかかってしまい、いまいちスッキリしなかったんですよ。それが本作の場合、そこまで悪くはない。土方を陰ながら支える一人の女性として柴咲コウさんが程良い形で存在感を出していたし、全体的にもバランス良かった。もしかしたら『関ヶ原』の時に私の様なガチな声があったのを受けて、原田監督もバランスを整えたのかな?なんて思ったりもします。

さて、新選組と言えばだんだら柄に「誠」の文字が入った揃いのユニフォーム。これまでの新選組をモチーフにした作品では必ずこの衣装が登場してきて我々もそれこそを新選組と認識していました。しかし、本作では一部を除いて黒を基調とした決して派手ではないが、落ち着いた色合いの着物と袴を着用しています。「こんなの新選組じゃない!」等と言うなかれ。実はこれにも理由があり、最近の研究では新選組の中でも芹沢鴨が件の衣装を考案し、芹沢の一派のみが着用していたのでは?とする説があり、そちらを採用したものだそうです。ふむふむ、なるほど。尚、本作での芹沢鴨伊藤英明さんが演じています。知性と狂気を秘めた芹沢を色気を交えながら好演しています。

それから僕は本作に関してはラストが素晴らしかったです!土方歳三は函館.五稜郭の戦いで戦死します。映画のネタバレではありません、歴史的事実です(笑)当然、そのシーンがラストにあるのですが、土方の死後の云々みたいなのは、映像面でもナレーションでも挿入されないんですよ。土方の亡骸を俯瞰ショットで捉え、終劇。余韻を残すでもなく、綺麗に幕を下ろす。僕の好きなエンドパターンですね。

さて、『関ヶ原』の時もそうでしたが、本作もある程度の歴史的知識を必要とします。ライトな人には不親切な作りと言えるかもしれませんが、これにも理由がある様です。原田監督が指摘するのは、最近の若い人はわからない事を調べるという事をしない。初めからわかりやすく作れば良いかもしれないが、調べるという行動を起こし欲しいと。なるほど、知的好奇心を刺激し、調べるという能動的なアクションへ導くという意味では理にかなった見せ方かもしれない。もっともその行動を引き起こす為にはそれに即したエンターテイメント性も必要であるが。

そんな事を思いながら劇場に後をしました。