きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

いのちの停車場

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作家としても活躍する現役医師・南杏子の同名小説を「八日目の蝉」の成島出監督が映画化し、吉永小百合が自身初となる医師役に挑んだ社会派ヒューマンドラマ。長年にわたり大学病院の救命救急医として働いてきた白石咲和子は、ある事情から父・達郎が暮らす石川県の実家に戻り、在宅医療を行う「まほろば診療所」に勤めることに。これまで自分が経験してきた医療とは違うかたちでの“いのち”との向き合い方に戸惑いを覚える咲和子だったが、院長の仙川をはじめ、診療所を支える訪問看護師の星野、咲和子を慕って診療所にやって来た元大学病院職員の野呂ら周囲の人々に支えられ、在宅医療だからこそできる患者やその家族との向き合い方を見いだしていく。咲和子を追って診療所で働き始める青年・野呂を松坂桃李訪問看護師・星野を広瀬すず、院長・仙川を西田敏行、咲和子を温かく見守る父・達郎を田中泯が演じる。
(映画.com)

コロナ禍によって、ここ一年以上医療に関するニュースは毎日の様に耳にしています。
医療現場の皆さんが如何に大変であるかは今更言うまでもありません。
さて、本作は医療は医療でも在宅医療をフォーカスした作品です。
現役医師で作家でもある南杏子さんによる原作で在宅医療患者の実態を描き出した小説の映画化。
主演は日本が誇る大女優・吉永小百合さん。
吉永さんはこれまで数々の映画にご出演されてきていますが、医師の役は本作が初という事ですね。

実を言うと本作鑑賞にあたってはやや身構えていたところがあります。
吉永小百合さん主演という事でどうしても年齢層は高めだし、果たして自分の感性にハマるのか?と。

結果から言えば全然そんな心配は不要でしたね。
何より在宅医療というテーマに大きく着目する事でそこから様々な事を映し、現代の医療における課題等々について考えさせられる非常に深い内容でした。

まず、本作が鑑賞する上でわかりやすかったのが、全編を通じて描かれる人間模様でした。
診療所の主要なキャストの奮闘を軸にしながら彼らが向き合う6人の患者とその家族のエピソードがまさに短編集の様に展開されていきます。
皆それぞれに違う環境に身を置く人達が在宅医療を通じての人間ドラマを構築していく。
そこには本人と家族の想いが盛り込まれ、時にうるっとする場面も。
詳細にはお伝えしませんが、女の子のエピソードは去年見た『浅田家!』にも通じる様な純粋だからこそより見ていて押し潰されそうな想いに涙が止まりませんでした。
また、余命いくばくもない父と息子のエピソードは自らを重ね合わせ、いつか来る父との別れ。
その時に互いに悔いを残さない様親父と向き合っていこうなんて考えたり。
そんな事を考えるとこれは映画だけのお話しではなく、見ている人それぞれの物語でもあるななんて感じました。

また、現代の医療においての課題を示唆する様な場面も印象的です。
治験の安全性を問う様な場面では、新型コロナのワクチンについてのそれに通じる様な内容にも思えました。
更には安楽死ですね。
安楽死に関しては古くからその議題として取り沙汰される様なテーマで、映画で言えば昨年取り上げた『ドクター・デスの遺産』なんかはまさにこれを大きく扱ってましたよね。
ただ、正直『ドクター・デス』の場合はエンタメ性にその比重の重きを置いていた為か、結局最終地点が非常に薄く伝わりずらかったのが、何とも残念な所でした。
しかし、本作の場合は田中泯さんが演じる父・達郎の闘病の様子があまりに辛く描かれている事もあってかリアルに伝わってきます。
安楽死の是非を巡っては是非この映画から真剣に考えて頂きたいと思います。
ちなみに余談ですが、田中泯さんは現在公開中の『HOKUSAI』で老年期の葛飾北斎を演じています。
この『いのちの停車場』でも元美術教師で自宅で油絵を描くシーンが登場します。
アーティストとしての田中泯さんを見比べるのも面白いかもしれませんね。

さて、この田中泯さんをはじめとして豪華俳優陣が集結している本作。
そんなキャスト陣に目を写していきましょう。
主演の吉永小百合さんをはじめ西田敏行さんや柳葉敏郎さん、南野陽子さん、石田ゆり子さん等のベテラン勢は言うまでもないですが、若い二人が非常に良かったですね。
松坂桃李さんと広瀬すずさんですね。
松坂さんの好青年でありながら心根はめっちゃ熱くて真っ直ぐな人物像はかなり好感が持てましたし、久しぶりの広瀬すずさんの等身大の演技がまた光る光る。
ちなみに久しぶりの、と言いましたが、すずちゃんと言えば『チア☆ダン』、『ちはやふる』、『一度死んでみた』等元気な女の子の役が多かったじゃないですか?
そういう意味でね(笑)
で、個人的なポイントとしてはこの二人、劇中でかなりいい感じの関係になるんですよね。
でもあえてそういう恋愛的な流れにしなかったのはかなり好印象ですね。
ちなみにすずちゃんと言えばお姉さんのアリスさんは前回紹介した『地獄の花園』に出演中ですね。
両作をはしごして広瀬姉妹の演技を堪能するなんてのもオススメです。


とここまで本作に関してはかなり好意的にお伝えしてきました。
しかし、どうしても勿体ないと思う部分があったので触れておきましょう。
まずは広瀬すず演じる訪問看護師の星野と松坂桃李演じる野呂が初めて顔を合わせるシーンね。
真っ赤なスポーツカーで診療所にやってきた野呂に対して「誰?あの車?私擦っちゃった」と自転車でやってきた彼女は悪びれる事なく言うわけですが、俺は思わず「いや、擦っちゃったじゃねぇだろ!まずは謝れよ!」なんて突っ込んじゃいましたよ。
これちょっと彼女のイメージとしてはマイナスじゃない?

後は色んな患者をピックアップした群像劇にしたのはいいけど、いずれのエピソードも駆け足過ぎて言葉は悪いけど死を迎える患者達の話しをベルトコンベアに乗せた流れ作業で見せられている様で何とも残念でした。
尺の都合と言うのももちろんあるでしょうが、ここ2~3エピソードを削ってコンパクトにまとめた方が良かった様な気がします。
何だったら前述の小さい女の子と父と息子の話しだけにしても良かったんじゃないかな?


と指摘すべき点は確かにありましたが、医療と人間という視点で見た場合、色々考えさせられる内容でした。
是非劇場でご覧下さい!