きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ヤクザと家族 The Family

f:id:shimatte60:20210201185538j:plain

「新聞記者」が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督が、時代の中で排除されていくヤクザたちの姿を3つの時代の価値観で描いていくオリジナル作品。これが初共演となる綾野剛舘ひろしが、父子の契りを結んだヤクザ役を演じた。1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。
(映画.comより)

ヤクザ映画。
かつては日本映画の主流…とまでは言わないまでもかなりの作品が量産されておりました。
しかし、昨今はやはりコンプライアンスの問題もあるのでしょう。
ヤクザを描くにしても徹底した悪役として登場させ報われない最後を遂げさせる或いは逆手に取るかの様にとにかくコミカルに描きヤクザ特有の血生臭さを抹消させるか。
そんな印象があります。

ではこの作品はどうであったか?
ヤクザの栄枯盛衰を一人の男そして組という組織を写し出し、我々に問題提起をするかの様な作品でした。
そしてこれは少なくとも2021年の邦画では非常に重要な文脈で語られるであろう大作となっています。

まずは1999年。
一人のヤンキーがヤクザの組へ転がり込んでくる描写。
ヤクザというものにも勢いがあり、飲食店での暴力沙汰も日常茶飯事。
登場してくるヤクザもとにかくギラギラしてるわけですよ。
綾野剛演じる山本もまた血気盛んだし、舘ひろし演じる柴崎組組長もオーラが半端ない!
綾野剛さんは『新宿スワン』等でアウトロー社会の人物を演じておりましたので、バッチリハマる役ですが舘ひろしの貫禄ですよ!
画面越しでもそのオーラは伝わりますし、何ともハードボイルドな出で立ちとダンディズムが魅力的!
で、このギラギラ感が後の時代との対比で非常に活きてくるとはこの時は思いもしませんでした。

2005年。
柴崎組で実績を積んだ山本も立派なヤクザへ。
しかし、ある事件がきっかけで彼は逮捕。
その後刑務所での暮らしを余儀なくされるわけです。
ここで印象的なのは銃撃事件。
山本と柴崎の乗る車が銃撃されるのですが、その後の山本を追った長回しです。
銃撃後、命からがら車から逃げ出す山本。
焦燥しきった山本の表情を写し出し彼の視線の先にあるショッキングな映像を捉えていく。
これにより見ている側へ事件に対する衝撃とやりきれない顛末を伝えていくのです。
そしてこれが山本の人生を大きく狂わせていくのですが、このシーンが挿入される事によって非常に重いメッセージを投げ掛けてくるんですよね。
ここではヤクザの無慈悲な実態を浮かび上がらせると同時に彼らが生きた最後の時代でもある事を象徴する様でもあり…。


そして14年の刑期を終えた後です。
暴対法の施行によりヤクザの生き場所は失われ、往時の様なギラつきも当然なくなります。
柴崎組も縮小され、あれほどオーラを放っていた柴崎組長も病に冒され余命いくばくもない状態。
かつての仲間も更正して家庭を持ち堅気で生きている。
山本もまた堅気となり愛する人と再会後、幸せな家庭を夢見て幸せを手にしようとした矢先に…。

と、極力壮大なネタバレをさせない様にあらすじを伝えたらざっとこんな感じ。
三つの年代に分けてヤクザを取り巻く状況を分かりやすく伝え、そしてヤクザとして生きれなかった男の人生を残酷な現実と共に描き出していきます。

ヤクザに人権なんて物はない。

そんな印象的な台詞も登場するし、事実彼らが社会的に与えた行為は決して許される事ではないでしょう。
しかし、一度ヤクザに手を染めた男達は更正して社会復帰する事は認められないのか?
例え堅気で生きても元ヤクザというレッテルで受け入れない社会でいいのか?

それを深く突き刺してくる様な作品でしたね。
また、直接ヤクザを家族として迎える事で仕事を失い子供にも被害が生じるそんな日本の社会に鋭いメスを入れる社会派作品として世に放たれた意義は大変強いものがあると思います。

ヤクザを決して賛美してはいけない。
どれだけ調子こいた奴であっても最後はむごたらしい死に方をさせると同時にどこかしら笑いも秘めさせる。
北野武監督の『アウトレイジ』シリーズではその手法でヤクザ映画のエンターテイメント性を打ち立てる事に成功させたのですが、本作の場合更正したヤクザとそれに関わった人を徹底的に突き落とす。
そのやりきれなさから我々が今一度ヤクザや半グレのあり方を巡って思考を巡らせる様なそんな作品だと思いました。

ヤクザ映画というものに対して抵抗を示す層も当然いるでしょうが、この作品は是非見て頂きたい!
ヤクザとは?
また、過去の過ちを許容する寛容性についてを問う非常に深い映画だったと思いました。