きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

ソウルフル・ワールド

f:id:shimatte60:20210107112312j:plain

ディズニー&ピクサーによる長編アニメーション。「インサイド・ヘッド」「カールおじさんの空飛ぶ家」を手がけ、ピクサー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーも務めるピート・ドクター監督が、人間が生まれる前の「ソウル(魂)」たちの世界を舞台に描くファンタジーアドベンチャー。ニューヨークに暮らし、ジャズミュージシャンを夢見ながら音楽教師をしているジョー・ガードナーは、ついに憧れのジャズクラブで演奏するチャンスを手にする。しかし、その直後に運悪くマンホールに落下してしまい、そこから「ソウル(魂)」たちの世界に迷い込んでしまう。そこはソウルたちが人間として現世に生まれる前にどんな性格や興味を持つかを決める場所だった。ソウルの姿になってしまったジョーは、22番と呼ばれるソウルと出会うが、22番は人間の世界が大嫌いで、何の興味も見つけられず、何百年もソウルの姿のままだった。生きる目的を見つけられない22番と、夢をかなえるために元の世界に戻りたいジョー。正反対の2人の出会いが冒険の始まりとなるが……。Disney+で2020年12月25日から配信。当初は劇場公開予定だったが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大により劇場公開を断念し、Disney+での独占配信に切り替えられた。日本語吹き替え声優は浜野健太、川栄李奈
(映画.comより)

まずはこの作品。
不本意ながらピクサー映画では初めて劇場公開されない長編映画となってしまいました。
全世界はもちろん、日本でも大変人気の高いピクサー作品ですから興行的なヒットもかなり期待出来た事でしょう。
コロナを恨むしかないのですが、しかし公開延期という選択をせず、配信へシフトした事情としては各種賞レースに間に合わせたかったとも言われています。
さて、私事ですが、この『ソウルフル・ワールド』配信に合わせDisney+の登録をしました。
『ムーラン』の時も考えたのですが、結局その時は見送り本作配信に合わせて登録した次第です。
月額790円でDisney作品が見放題。
ピクサーもマーベルもスターウォーズも対象となりますので映画ファン・ディズニーファンは強く登録をすすめます!
更にこの『ソウルフル・ワールド』だってリピートも出来るわけですからね。
これまで配信に対して遅れをとっていた私もこのDisney+のお陰で退屈しない年末年始を過ごす事が出来ました。

さて、ピクサー作品が大好きな私。
当初劇場公開が予定されていた本作の予告を見た時からかなり高い期待を抱き、そして鑑賞致しました。
何より本作の監督はピート・ドクター監督。
ピクサーの黎明期から手腕を発揮し、独創性の高い作品で唯一無二の世界観を築いてきました。
とりわけ近年で言えば2015年の『インサイド・ヘッド』では喜び・怒り・悲しみ等の感情を具現化し、人間の心理世界を舞台にするという革新的な表現で我々を驚かせ、2018年の『リメンバー・ミー』は監督流の死後の世界を実体化させ、話題を呼んだのも記憶に新しいところです。

そして本作では更にこれまでの想像を遥かに超越した作品世界。
それは生命誕生前の世界です。
人間が生を受ける前をクリエイティブな思考で形成し、それをひとつのストーリーへと落とし込んでいく。
聡明な人の発想の凄さというのを僕はあの『インサイド・ヘッド』でまざまざと見せつけられただただ驚愕させられたのですが、本作でもやはりこの人の超越した才能に圧倒されてしまいました!
惜しむらくはこれを劇場で体験出来なかった事ですが、重ねてコロナを恨むばかりです。

まず本作で特徴的なのは黒人が主人公なんですよね。
有色人種としては『リメンバー・ミー』もそうでしたが、これは近年のディズニー作品でもよく見られる流れ。
グローバルな世界を象徴する傾向ではありますが、ピクサー作品では意外にも初めて。
更に中年男性が主人公というのも初なんですね。
恋人も妻もなく安定した職にも就かず母親からは将来を不安視される…なんてまるで俺じゃねぇか!
なんて見てましたが、正にそれ。
だけどジャズミュージシャンとしての夢を抱き憧れのライブハウスでのステージに向けて励んでいるそれが彼の状況。
折しもこの「夢」がキーワードになる作品がこの『ソウルフル・ワールド』と同日に全国の映画館で公開となりました!
それが『えんとつ町のプペル』ですね。
キングコング西野亮廣が伝えたかったのは夢を追うという事にどこか卑屈になってしまうこの時代。
高らかに夢を語ってもいいじゃないかという夢讃歌とも言える内容でした。
一方、この『ソウルフル・ワールド』もやはり夢叶わずくすぶり続ける中年男・ジョーまたは周囲の人々の姿からこの夢に対してのテーマが表出していきます。
獣医になりたかった男性は床屋になる。
音楽を辞めようとしていたジョーの生徒がふとした一言で再び音楽に取り組もうとする。
そしてジョー当人はと言えばある夢を実現させる。
だけどその後に見る景色とその先の日々にどこかしら虚しさを感じてしまう。
そこで奇しくもジャズに造詣の深いタモリさんのある言葉を思い出しました。
夢を追うヤツって今が楽しくないから将来に理想の自分を描いた夢というものを見いだそうとする。
だけど夢という概念がなく、日々楽しく生きてるヤツってのは気付けばすごい事をやってのけてんだよな。
という趣旨のタモリさんらしい発言。
元々芸能界に入る気などさらさらなくサラリーマンをしていたタモリさんがミュージシャンの山下洋輔さんが宿泊していたホテルの一室に飛び込み歌舞伎の物真似を披露し、笑いをかっさらいそれが後の運命の扉を開く事になる。
そして赤塚不二夫という強力なサポーターの後押しでほとんど下積みなくテレビで活躍し、その後の国民的バラエティー番組の司会へ。
夢を抱かず一夜にして成功を掴み取ったタモリさんだからこそ言える発言かもしれません。
そしてタモリさんは人生を楽しめる人=ジャズの人という独自の定義も示されていました。

そしてこの『ソウルフル・ワールド』はまさに楽しめる=ジャズのタモリイズムを感じる描写が随所に見られるんですよ。
それはひょんな事からジョーと行動を共にする22番と呼ばれる魂がジョーの身体に入り込み、何気ない人間としての暮らしを謳歌するんですよね。
それまで気難しそうな歴史上の偉人の魂となっていた22番にとってはピザ一枚食べるのも子供用のキャンディーをくわえるのも町の人々と会話をするのも全て刺激的。
そして生まれるワードが「JAZZってる!」なんですよね。
JAZZの音楽的ルーツって元々は奴隷として連行される黒人がその悲しみを癒す為に唄った事から始まります。
しかし、それが後にサックス・ピアノ・ウッドベース・ドラムと楽器隊が加わりバンド演奏され人々の感情に訴えかける音楽へと変化していきました。
何百年に渡り抑制されていた「楽しむ」という感情を手に入れた22番が発したこのパワーワード
JAZZの歴史と22番のこれまでの過程とがリンクしていると感じたのは僕だけでしょうか。
個人的に22番がこのジョーの身体に入り床屋で独自の人生哲学を語るシーンが印象的でしたね。
22番が過去に入っていた人。
アルキメデスリンカーンマリー・アントワネット等々。
そんな偉人達に憑いてた(でいいのかな?)わけだからそりゃ理知的だわな。
22番が床屋さんにカットしてもらいながら独自の哲学を饒舌に展開。
カット待ちの客の誰もが熱心に耳を傾けていました。
で、このシーン。
いつもは音楽の話ししかしないジョーが床屋さんのこれまでの生い立ちの話しを引き出してるんですよね。
これは肉体こそジョーだけど頭脳が22番だから音楽しか話せないくすぶり続けるミュージシャンから話し上手で聞き出し上手まるでトーク番組の一流司会者の様になっているんですが、我々実生活に生きる人にも言えますよね。
考え方や意識を変えるだけで人は変われるという事です。

そしてこの映画における最大のメッセージ。
それは人の運命は実は生まれる前から決定づけられているのかもしれない。
だけどそれを切り開いていくのは自分次第という事。
更に言えば人間の幸福なんて所詮は相対的な評価に過ぎず、最後は本人がどう判断するかって事なんですよね。
コニーは自分の夢の実現を前になかなか次のステージへ踏み出せず彼が意としない音楽の非常勤講師をしていました。
彼の母親は安定しているのが一番という思考で厚生年金と社会保険のつく講師としての正規雇用を良しとしミュージシャンの道に難色を示していました。
これは日本における我々世代と親世代の価値観にも正に通じる部分ですよね。
安定と不安定。
現実的な思考と夢に生きる思考
前者はまさにこれまでの時代において至上とされていた価値観なのですが、後者の生き方がこれからの時代重視されると言われています。
よく言う風の時代の価値観ですよね。
その価値観を肯定するつくりとなった本作と『えんとつ町のプペル』が同日に世に放たれたというのは後に振り返った時に強い意義を持つ様な気がします。