きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

WAVES/ウェーブス

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イット・カムズ・アット・ナイト」のトレイ・エドワード・シュルツが監督・脚本を手がけた青春ドラマ。ある夜を境に幸せな日常を失った兄妹の姿を通し、青春の挫折、恋愛、親子問題、家族の絆といった普遍的なテーマを描く。フロリダで暮らす高校生タイラーは、成績優秀でレスリング部のスター選手、さらに美しい恋人もいる。厳格な父との間に距離を感じながらも、何不自由のない毎日を送っていた。しかし肩の負傷により大切な試合への出場を禁じられ、そこへ追い打ちをかけるように恋人の妊娠が判明。人生の歯車が狂い始めた彼は自分を見失い、やがて決定的な悲劇が起こる。1年後、心を閉ざした妹エミリーの前に、すべての事情を知りながらも彼女に好意を寄せるルークが現れる。主人公タイラーを「イット・カムズ・アット・ナイト」のケルビン・ハリソン・Jr.、ルークを「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のルーカス・ヘッジズがそれぞれ演じる。
(映画. comより)

さて、今回の作品はこちら!
当初は4月に公開予定でしたが、やはりこちらもコロナの影響により公開延期。
7月10日にようやく封切りとなった『WAVES』です。
アカデミー作品賞受賞で話題となった『ムーンライト』をはじめ、最近では『ミッドサマー』の衝撃が記憶に新しいA24スタジオの最新作。
決して派手ではないけど見る人の心に確実に訴えかけてくる独創的な作風が多くの映画ファンを魅了する同スタジオが今回手掛けたのは一組の兄妹の青春の機微を描いた作品。
特徴的なのはこの兄妹のストーリーを同時進行で綴っていくのではなく、前半は兄・そして後半は妹といった具合に連続性のある二つの物語としてひとつの作品へ仕上げた点です。
その為、一本の映画でありながら、まるでオムニバス作品を見ているかの様な心象が残ります。
まず、前半の兄パートから見ていきましょう。
レスリングの強化選手として将来を嘱望された彼。
周囲の期待も大きく、仲間や家族・更に可愛い彼女も居たりと順風満帆。
しかし、レスリング選手にとって致命的な怪我に始まって以降負の連鎖が続き、やがて事態はとんでもない事になっていきます。
実はこの前半部いわゆるリア充高校生の日常を見ているだけでややもすれば退屈に感じられる部分もあります。
しかも、リア充高校生らしくヤンチャな面もあったりで案外その辺好みが分かれるかもしれません。
ま、それでも父親との距離感への葛藤であったり彼には彼なりの悩みなんかもあるんですけどね。
で、クリスチャンであるこの一家が教会へ行くくだり。
ここでの神父さんの言葉、くれぐれもありきたりな映画のワンシーンだと聞き逃さない様にして下さい。
実はこの言葉こそがその後の彼や一家果ては映画全体に直結する非常に重要なメッセージでもあるのです。
こんな細かい伏線の張り方にも要注目ですが、話しを戻します。
ふとしたきっかけから大きく狂い始める人生の歯車。
はっきり言ってここからの展開ですが、スリリングを通り越して恐怖を感じましたね。
ほんの些細なきっかけがこんなにも人を狂わせるのかと。
で、この時の演出がまた絶妙でして、見ているこちらが過ちを犯す人間張本人であるかの様に錯覚させるかの様な臨場感。
この流れにはリア充高校生のはっちゃけた学生生活にともすれば睡魔すら襲われていた僕も一気に引き付けれてしまいましたね。
そしてマスクの下の僕の口が今にも動き出しそう。
「俺しゃない…。俺は何もやってない」なんて(笑)

そして後半部、妹のストーリー。
犯罪者の家族の実態をリアルに映し出す挿入部。
実際の事件で殺人を犯した男の弟がショックの余り、自殺したという事例が実際ありますが、この時の妹や両親にも当然厳しいバッシングやネット上での誹謗中傷等世界中ではあるわけですが、妹もまたそんな厳しい目を向けられる中、ひっそりと生きていきます。
しかし、彼女にも理解者となるボーイフレンドが出来、少しずつ変化が現れるわけです。
ふむふむ、言ってみればストーリー自体決して目新しさがあるわけではない。
でもね、やはり作品に引き込まれていく辺り見せ方がうまいんでしょうな。
で、実はこれにはからくりがありまして、音楽の力による所がかなり大きいんです。
これは映画全体においてなんですが、登場人物の心情や劇中に寄り添う様な形で非常にスマートに音楽が挿入されていきます。
さながらミュージカルを見ている様ですが、もちろんミュージカルではなく、プレイリスト・ムービーと銘打つ形での音楽映画でもあるんです。
参加アーティストにしてもカニエ・ウェストエイミー・ワインハウスレディオヘッド等々一流どころを配し、その場面場面に合う形でこれらのアーティストの楽曲が映画を盛り上げてくれる。
音楽ファン特に洋楽好きな方にはオススメしたいところですね。
ちなみに本作のメガホンを取った新鋭トレイ・エドワード・シュルツ。
彼自らのプレイリストから作品を構成し、作り上げたのが本作。
映像にも音楽にも一流のこだわりがあるという事が作品全体から伝わってきます。
ちなみにこの新進気鋭の若手監督。
若干31歳との事で、今後の更なる活躍が期待されると同時にその若さでここまでの作品を仕上げるセンスや才能に脱帽です!

さて、2020年のここまで見てきた作品について。
コロナ禍により、業界全体が大きく変化してきている中、個人的には洋画の印象深い作品が多いなと感じています。
『パラサイト』、『ミッドサマー』そして本作。
いずれの作品も見終わった後に何とも言えないダークな心境になるのですが、こうした作品が今年相次いで公開されるのはただの偶然なのでしょうか?


なんてダークな含みを持たせつつ今回はこれにて終了です。