きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

一度死んでみた

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大嫌いな父親に「死んでくれ!」と毒づく女子大生と本当に死んでしまった父親が巻き起こす騒動を、広瀬すず主演、堤真一吉沢亮共演で描くドタバタコメディ。「犬と私の10の約束」「ジャッジ!」で知られる澤本嘉光のオリジナル脚本で、auの人気CM「三太郎」シリーズを手がけてきたCMディレクターの浜崎慎治が長編映画初監督。大学4年の野畑七瀬は、製薬会社社長の父親・計(はかる)と2人暮らし。何かと口うるさく干渉してくる計が大嫌いな七瀬は、日々「一度死んでくれ!」と毒づいていたが、計は偶然開発された「一度死んで2日後に生き返る薬」を飲み、本当に「一度死んで」しまう。それは会社乗っ取り計画を耳にした計による、社内に潜んでいるであろうスパイ社員をあぶりだす秘策だった。おばけとなって姿を現した計、薄すぎる存在感から「ゴースト」と呼ばれている計の秘書・松岡、そして七瀬の3人は、会社乗っ取り計画阻止と計を無事生き返らせるミッションに挑むのだが……。
(映画.comより)

正直、この映画。今の時勢的に大丈夫なのかなという不安はありました。
多くの方が亡くなっている最中、死を題材にしたコメディ映画なわけですからね。
しかし、結論から言いますと、死を笑いにするなんて不謹慎だなんて考えるより年頃の娘にありがちな父親に対する「うざい」「クサイ」、「キモい」という偏見から「死ねばいいのに」なんて思ってしまう感情。
でも、もし死んでしまったらどうですか?を問い、父娘の関係に一石を投じる様な非常にメッセージ性のある作品となっていました。

監督を務めた浜崎慎治さん。
CMディレクターとしてauの三太郎シリーズを手掛けてきた方。
鳥取県出身の方なんですね。
三太郎シリーズで見せたあの軽快かつコミカルな世界観を映画でどう表現するのか楽しみにしておりました。

主演は数々の人気作に出演してきた広瀬すずさん。
『三度目の殺人』や『ラプラスの魔女』といったシリアスな作品で見せた陰のある少女や『海街diary』や記憶に新しい『ラストレター』で見せた瑞々しさ溢れるピュアな少女、『チア☆ダン』や『ちはやふる』シリーズでの天真爛漫だけど熱血的なスポーティーな女の子等々役の幅が非常に広く同世代の女優と比較しても突出してる彼女が本作で見せるのはデスメタルを歌うかなりロックな女の子なのであり、本格的なコメディは本作が意外にも初となります。
とはいえ『チア☆ダン』や『ちはやふる』更に『SUNNY』でも彼女のコメディエンヌぶりはこれまで見てきました。
しかし、これらの作品は核となる主題の中に含まれたコメディ要素。
つまりコメディパートはあくまでおまけ程度だったわけですが、本作ではバリバリのコメディです。
振り切った演技を見せるすずちゃんをこれでもかとばかりに見せてくれるのですが、これが良いんですよ!
ちはやふる』の時の様な変顔こそありませんが、とにかくテンションは高いし、デスメタルを歌い上げる彼女も板についてるんですよ。

吉沢亮とのタッグで死んだ父親を生き返らせるバディものですが、この吉沢亮さんもいいですね。
存在感のない会社員という役柄ですが、この設定を巧みに取り込みながらすずちゃんと一緒に動いていくんですよね。

堤真一さんの父親がまた絶妙です。
『決算!忠臣蔵』の時にもお話ししましたが、僕はコメディ俳優としての堤さんが大好きでして、本人がノリノリで演じていらっしゃるのが伝わり、見ていて清々しいんですよ。
とあるきっかけで死ぬわけですが、リリー・フランキー演じる天国への案内人(?)との掛け合いがとにかく楽しい!

その他、本来チョイ役とされるポジションにも豪華な顔触れが並んでいます。
竹中直人池田エライザ、でんでん、松田翔太古田新太、志尊淳、大友康平妻夫木聡等々。

さて、この『一度死んでみた』ですが、前述の様に顔も見たくない程嫌いとする身近な人がもし死んでしまったら?を大々的に描いた作品です。
「失ってはじめて気付く大切さ」なんて言うと割とありがちなんだけど、父親が死んだ事によってわかる娘への思いや父娘間の心のすれ違いを表す諸々を目の当たりにし、理解していく親心。
決して多くを語らない父親だからこそ娘に伝わらないなんて事は多くのご家庭であるのではないでしょうか。
広瀬すず演じる七瀬が気づき、感情の変化が描かれ行動へ反映される辺りに注目して頂きたいです。

それからもうひとつ面白かったのが堤真一演じる父親の野畑計が死んだ後の様子を眺めるその視点。
ドッペルゲンガーに近いですが、自らの死体を目の当たりにしたり、娘の七瀬を含めた周囲の人達は自分をどの様に見て、どう接していたかがわかる。
会社の社員達に目を移すと香典をケチッたり、悪態をついていたりと見たくないところを見てしまうんですが、ここ笑いを交えたシーンではあるものの、かなり人間の本質を捉えているなと思いました。
自分では良かれと思いしてきた事や日頃の行いではあっても他者からすると全く違う評価であったり。
よく自分を客観的に見れているかなんて言われますが、それが一番難しい事でもある。
彼は自らが死んで初めてそれを気付くのですが、部下達が悪態をつくのを見ながら「こいつら~…」なんて苦虫を噛み締めるのですが、これがなかなか見ている人へのメッセージにもなっていたりするし、僕自身が自己を客観的に見れていないと思いますので、ダイレクトに胸を打ちましたね。

それから久しぶりにすずちゃんの歌声を聴きましたけど、彼女はやはり歌が上手い…なんて言うとカラオケが得意な人を褒めるだけの表現にしか聞こえないのでもっと言うと歌で表現をする女優的な歌唱表現が卓越しているなと感じました。
以前、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で『瑠璃色の地球』を披露し、彼女の音楽での表現力の高さに圧倒されましたが、本作ではより際立っているなと感じました。
前半デスメタルを歌い上げる彼女は「デスメタルってこんなんだよね?」的なちょっとかじってます感が出た歌唱シーンですが、実はこれでいいんです?
七瀬という女の子につきまとうテーマは「あなたは何がしたいんですか?」なので不安定であればあるほど良いのでしょう。
しかし、終盤バラードを歌唱する彼女は自分を取り繕うものを払拭し、等身大の自分としてステージに立つという印象を見事に植え付けているんです!
ここは是非見て頂きたいポイントですね!

時節柄、映画という娯楽を勧めにくいところではありますが、内容的にかなり楽しませて頂きました!