きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

男はつらいよ お帰り寅さん

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山田洋次監督による国民的人情喜劇「男はつらいよ」シリーズの50周年記念作品。1969年に第1作が劇場公開されてから50周年を迎え、97年の「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」以来、22年ぶりに製作された。倍賞千恵子前田吟吉岡秀隆らに加え、シリーズの看板俳優であり、96年に亡くなった渥美清も出演。さらに、歴代マドンナからは後藤久美子浅丘ルリ子と「男はつらいよ」でおなじみのキャストが顔をそろえる。柴又の帝釈天の参道にかつてあった団子屋「くるまや」は、現在はカフェに生まれ変わっていた。その裏手にある住居では車寅次郎の甥である満男の妻の7回忌の法事で集まった人たちが昔話に花を咲かせていた。サラリーマンから小説家に転進した満男の最新作のサイン会の行列の中に、満男の初恋の人で結婚の約束までしたイズミの姿があった。イズミに再会した満男は「会わせたい人がいる」とイズミを小さなジャズ喫茶に連れて行く。その店はかつて寅次郎の恋人だったリリーが経営する喫茶店だった。
(映画.comより)

実は私、東京はもう何度となく行ってまして、短い期間ではありますが、住んでいた事もあります。
ただ、東京の中でも新宿や渋谷みたいなイケイケキラキラな街より新橋の飲み屋で焼鳥肴に飲んだり、上野のアメ横を歩いたり、浅草で寄席なんぞ見たり果ては両国で相撲観戦みたいな渋~いコースを回るのが好きなんですよ。
北千住とか西新井みたいなザ・下町みたいな場所なんか特に愛着がありますね。
で、そんな僕の下町好きな原点って『こちら葛飾区亀有公園前派出所』であり、両津勘吉みたいな大人になりたいと昔は憧れてたもんですよ。
ただ、『こち亀』の作者である秋本治先生がかなり影響を受けたとされる『男はつらいよ』シリーズはほとんど見た事なかったんですね、お恥ずかしながら。
柴又にも何度か足を運んで寅さん像の写真を撮ったり寅さん記念館に行ってるにも関わらずですよ。
と言うのもこの新作以前に49作出ているんですよ。
どこから手をつけていったらいいのやらと。
しかし、今回新作も公開されたわけですし、こうして映画レビューをするにあたって何かしら予習をしようと思ってたところ、元日にBSで三作ほど放送されていたのでこれは好都合とばかりに見たところ、これが大正解!
しっかり予習が出来、本作鑑賞にあたっても非常に活きたわけでございます。
NHK BSで放送されていたのは『男はつらいよ』(1969)、『男はつらいよ柴又慕情』(1972)、『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975)の三作。
いずれの作品も非常に面白く一気に寅さん大好きになりました。
元々下町大好きな私です。
自分の感性的に寅さんの世界がハマるのは考えてみれば無理もない話しなのかもしれません。

オープニングでは桑田佳祐が唄う名曲『男はつらいよ』がPVさながらに流れますが、考えてみれば桑田さん。
以前『桑田佳祐の音楽寅さん』って番組やってましたもんね。
寅さんと縁があるんだなぁ(笑)
で、劇中の冒頭で桑田さんのベストアルバム『I LOVE YOU』のジャケットが映るんですよね。
「やり過ぎだろ」と思いつつもニヤリとしてしまう。
で、本作は吉岡秀隆演じる満男と初恋の相手である後藤久美子演じる及川泉のストーリーを中心に据えながら過去の名シーンが交わり、ひとつの物語を構築するという流れです。
渥美清さん、寅さんへのリスペクトが山田監督からもキャストの面々からも溢れ出ている様でにわかな僕が見てもその熱さをひしひしと受け止められる様な寅さん愛に満ちた作品でした。
とりわけ寅さんの元恋人である浅丘ルリ子さん演じるリリーが寅さんとのエピソードを話し、そしてその後の近況なんかを話す辺りは前日の『寅次郎相合い傘』とそのままリンクする内容だけにめちゃくちゃ切なさを感じましたよ。
そして吉岡さんとゴクミの二人による大人同士の越えそうで越えない一線を含むラブストーリーはお互い酸いも甘いも知った大人でありながらまるで高校生の様な甘酸っぱさも感じられる。
それは二人の高校生時代のシーンが度々回想されるからと言うのもあるんですが、満男の子供時代からを見続けたオールドファンがまるで息子の成長を見る目線への気遣いを忘れない山田監督一流のファンサービスの様に見えました。
そしてこの作品において最大のファンサービスと言えば歴代マドンナと寅さんを振り返るラストにありますよね。
実はここかなりうるっときました。
吉岡秀隆さんの目から流れる涙。
これは車満男というキャラクターによる落涙じゃなくて子供の頃から寅さんを見てきてそして自分の成長を見守ってきた渥美清さんを偲ぶあまりに演技ではなく素で流れた涙なんじゃないかなと思いました。
だから僕みたいなにわかが見ても非常に胸を打つものがありました。
それから印象的だったのはこの映画の中では寅さんは亡くなっていないという設定にしている事。
50年前にシリーズ一作目が公開されている超長寿作。
鬼籍に入った方々は渥美清さんだけではありません。
他キャストは現実の時と同じ歩みをし、亡くなっていたり歳を重ねていたり、本作の主人公である満男にも高校生の娘がいます。
しかし、まるで時間が止まっているかの様に寅さんだけは亡くなったのではなく、長い旅に出てまだ戻って来ていないかの様。
これは過去のシリーズで日本中を旅し続けた寅さんがまたいつでも帰って来れる様に寅さんの居場所を皆で残しているかの様な、そんな温かさを感じさせてくれます。
車寅次郎は永遠に日本人の心の中に生き続けているという山田監督のメッセージの様にも感じられました。
そしてエンドロールでは故人となってしまった『男はつらいよ』シリーズの名優達の名前も流れ、巨匠・山田洋次監督による大きなリスペクト・愛・そして感謝の想いが綴られている様でした。
それに何と言っても本作の最大の魅力を挙げるならばオールドファンにとっては懐かしい名シーンや寅さんやキャストの皆さんとの再会に胸が熱くなるでしょうし、新規の人には過去の作品を見たいと思わせる作りになっているところ。
令和最初の正月に時代を作った偉大なスターと作品に出会えた感動。
良い年のスタートとなりました!