きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

50回目のファーストキス

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アダム・サンドラードリュー・バリモア主演による2004年のハリウッド映画「50回目のファースト・キス」を、山田孝之長澤まさみ共演でリメイクしたラブコメディ。ハワイ、オアフ島でツアーガイドとして働きながら天文学の研究をしているプレイボーイの大輔は、地元の魅力的な女性・瑠衣とカフェで出会う。2人はすぐに意気投合するが、翌朝になると、瑠衣は大輔についての記憶を完全に失っていた。瑠衣は過去の事故の後遺症のため、新しい記憶が一晩でリセットされる障害を抱えているのだ。そんな瑠衣に本気で恋をした大輔は、彼女が自分を忘れるたびにさまざまな手で口説き落とし、毎日恋に落ちて毎日ファーストキスを繰り返すが……。「銀魂」をはじめコメディ作品で手腕を振るってきた福田雄一が監督・脚本を手がけ、ラブストーリーに挑戦。オリジナル版の舞台でもあるハワイでオールロケを敢行した。
(映画.com より)

興行収入38億円を記録し昨年度の邦画実写1位の大ヒットとなった『銀魂』。
続編もいよいよ来月公開され、期待が高まる福田雄一監督。
6月初週に公開され、『万引き家族』・『空飛ぶタイヤ』というヒット作がひしめく映画ランキングにおいて大きく順位を下げる事なく着実に興収を伸ばしているのが本作・『50回目のファーストキス』です。
いわゆる純愛系のラブストーリーでこのテの作品は普段はあまり見る事がないのですが、先日鑑賞して参りました。
鑑賞動機としては他に見る作品がなかったから…てのは事実ですが(事実かいっ!!)それ以上に『勇者ヨシヒコ』シリーズの福田雄一監督がメガホンを撮ったラブストーリーという題材に魅かれました。

するとどうでしょう。
こちらの予想の遥か上をいく爆笑コントではないですか!!
福田監督の笑いへの貪欲さ感服致します。

主演は『勇者ヨシヒコ』シリーズで福田組の常連でもある山田孝之さん。
このところの彼と言えばこのヨシヒコシリーズしかり『闇金ウシジマくん』の丑嶋社長然りキャラクター要素の強い役柄を演じて来られました。
変わって本作ではハワイで現地ガイドのバイトをしながら天文学の研究に没頭する研究者という等身大の青年役。
プレイボーイで女性に不自由しない彼がはじめて純な一目惚れをする。
そんな男性を演じます。
山田孝之の純愛物と言えば『電車男』(05)が真っ先に浮かびましたが『電車男』さながらのピュアな演技が久しくウシジマくん慣れしてしまっていたので妙に新鮮でした。

一方、ヒロインを演じたのが長澤まさみさん。
昨年の『銀魂』で福田組初参加となりコミカルな演技で新たな魅力を発揮したのは記憶に新しいですね。
今年公開された『嘘を愛する女』では大人の女性といった印象でしたが、本作ではあの『モテキ』(2011)再来か?と思わせる男であれば惚れないヤツはいない魅力的なヒロインを演じていました。
モテキ』との対比で言えば『モテキ』のヒロイン像は男が確実に翻弄されてしまうでもこんなコにだったら騙されてもいいと思わせる小悪魔的な女性であったのに対しこの『50回目のファーストキス』だと難病を抱える女性という設定ゆえにでしょう守ってあげたいと思わせるヒロイン像で長澤まさみの演技力に感服するのみです。

ムロツヨシ佐藤二朗という福田組には欠かせない面々も相変わらずの協力な個性。
そしてほぼアドリブと思わせるキレの良いコミカルなセリフの数々には笑いなくして見る事が出来ません。
とりわけムロツヨシさんなんて先日見た『空飛ぶタイヤ』との対比に思わずにやついてしまいます。
そして本作のキャスト尽にあってMVP を贈りたいと思わせる最強のコメディアンっぷりを見せたのが太賀くんでした。
空前絶後のあの芸人さんを彷彿とさせる服装で繰り広げるおばかキャラがたまりませんでした。
今回彼は長澤まさみ演じるヒロイン・留依の弟役にしてゲイというキャラクターでしたが、父親役の佐藤二朗さんのツッコミも相まって絶妙な存在感を見せてくれます。

この様に登場するキャストは非常に振りきっておバカをやってくれるので終始飽きさせません。ふと我に返ると「あれ?これって恋愛映画だよな?」なんて自問自答をしてしまう自分が居ました。

やはり福田監督にはブレがありませんでした。

この様にとにかく笑えるコメディ映画である事は間違いありません。

肝心の恋愛要素はと言うと、これがまた泣けるんですよ。
記憶障害という難病に冒されたヒロインと一途に彼女を思い続ける青年。
障害があるからこそのやりきれなさは見る者の心情に訴え掛けてくるので後半の展開は涙腺が決壊するのを自ら実感する事になるでしょう。
ここまで泣いた邦画は久しぶりです。
今夜、ロマンス劇場で』以来かな。

そういえば記憶障害を題材にした恋愛映画と言えば『8年越しの花嫁』という作品がありましたね。
今年初頭に同作を評しましたので詳しくはそちらを読んで頂くとしてあの作品で私は泣く事はありませんでした。
作品自体は良かったし、佐藤健・土屋太鳳らキャスト陣の演技は胸を打つものがありました。
しかし、何故に涙腺が崩壊される事なく淡々と鑑賞する事が出来たのか。
思うに全面的に感動を押しすぎた点にあるのではないかと分析しています。
感動ポルノとまでは言いませんが、あまりに泣き要素を押し過ぎるとこちらも構えて見る事になります。
一方、前述の『今夜、ロマンス劇場で』然りこの『50回目のファーストキス』しかりそこまでの泣きをプッシュしていない。
いち娯楽作品でありその延長線上に感動要素がある。
見る側のハードルも良い意味で下がるので絶好の視聴体勢で鑑賞する事が出来るのです。

それにしても福田雄一監督の引き出しの多さには脱帽するところですが、本作に関して言えばアメリカの恋愛映画を下敷きにしながらも日本のスウィーツ映画を皮肉るという狙いがあったのではないかと考えています。
最近でこそ映画を鑑賞する側の目も肥えたのか興行面ではことごとく失敗している若い女性をのみ対象にした様な恋愛映画。いわゆるスウィーツと揶揄されるタイプの作品ですね。
一時期は金脈を掘り起こしたかの様に各配給会社が製作し続けたスウィーツ映画。
スウィーツ映画そのものを否定するつもりはありません。
若手俳優育成の場でもあるし壁ドンなるブームも生み出して社会的な影響力もありました。
それに私自身純粋に楽しめた作品もありました。
しかしおしなべて陳腐な作品群で映画ファンからそっぽを向かれるタイプの映画でもあります。
福田監督が今この作品を製作した背景にはこのスウィーツを思いのままおちょくりつつも見た後には満足の得られる物を作ろうという心意気があったのではないかなと思います。
福田流のギャグをふんだんに盛り込み、コメディとしてもしっかり完成された内容にしつつも嫌みなくさらっと泣かせる展開に運んでいく。
スウィーツブーム時、『女子ーズ』や『変態仮面』等一部のマニアにしか支持を受けなかった福田雄一監督が『銀魂』で天下を取り、スウィーツ風コメディをもヒットさせる事により遂にはスウィーツというジャンルすらも掌握した。
これはまさに福田雄一下剋上劇と言える作品でしょう。