きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

万引き家族

f:id:shimatte60:20180618202331j:plain

三度目の殺人」「海街diary」の是枝裕和監督が、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描いたヒューマンドラマ。2018年・第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画としては1997年の「うなぎ」以来21年ぶりとなる、最高賞のパルムドールを受賞した。東京の下町。高層マンションの谷間に取り残されたように建つ古い平屋に、家主である初枝の年金を目当てに、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀が暮らしていた。彼らは初枝の年金では足りない生活費を万引きで稼ぐという、社会の底辺にいるような一家だったが、いつも笑いが絶えない日々を送っている。そんなある冬の日、近所の団地の廊下で震えていた幼い女の子を見かねた治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることに。そして、ある事件をきっかけに仲の良かった家族はバラバラになっていき、それぞれが抱える秘密や願いが明らかになっていく。息子とともに万引きを繰り返す父親・治にリリー・フランキー、初枝役に樹木希林と是枝組常連のキャストに加え、信江役の安藤サクラ、信江の妹・亜紀役の松岡茉優らが是枝作品に初参加した。
(映画.com より)

カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞。
連日報道されていたので映画ファン以外でもその名前を知ってるであろう今最も多くの人に見られている日本映画・『万引き家族』。
あのケイト・ブランシェットも大絶賛してました。
興行収入も早くも17億円を突破(6月17日現在)し、見事二週連続で動員ランキング一位となっています。

そんな社会的関心も高い本作ですが、6月8日の公開初日に見て参りました。
さすがに注目度の高い作品とあって公開初日とは言え、平日昼間の劇場は老若男女問わず多くの観客で埋め尽くされていました。

万引き家族
そのタイトルから「犯罪を助長するのか」とかそういう意見を目にしたりします。
まぁ、それ自体を否定するつもりはないですが、もっと深い部分に目を向けなさいよと言いたい。

万引きという行為。
それ自体は勿論犯罪であり、法の上においては裁かれなければならない。

しかし、この映画を通すと話しはそんな単純なものではないというのがよく理解出来ます。

この映画でも盛り込まれているのですが、窃盗・幼児虐待やネグレクトの問題・年金不正受給。
テレビのニュースやワイドショーなどでこういった問題が報道されると我々は一様に眉をひそめ怒り哀しみ憤り「許せない」「とんでもない」中には「こんな奴は死刑だ」なんて糾弾したりします。
そりゃ法律という正論に基づいて考えれば断罪されて然るべき事です。
ただ、罪を犯す側の目線に立てばこんな基準になるのかと考えさせられるケースもある。
本作で是枝監督はその視点に基づいてストーリーを展開していくので見ている側は一気に彼らの持つ視点に合わせていく事になります。
そもそもですが、是枝監督を本作の製作へ駆り立てたきっかけというのが年金の不正受給、そしてそのニュースを見るにつけ糾弾する大衆。
中にはそうでもしなければ生活が成り立たない家庭がいる現実があるのにその部分にはなかなか目が向かない。
ワイドショーの報道なんて年金を不正受給していたという事象しか取り上げないから大衆の心理が傾いてしまうのはやむを得ない。
しかし、それが結果として弱い者たちが夕暮れさらに弱い者を叩く。
そんな世の中になってしまうのです。
そしてそんな世の中の矛盾点を抽出し、ひとつの作品に仕上げていったのが本作なのです。

本作において言えば実は冒頭では子供に万引きをさせるダメな父親・治(リリー・フランキー)に眉をひそめてしまいます。
「こいつ仕事しねぇのかよ!」そんな事を考えてしまった自分がいたのも事実です。
しかし、彼が建設現場で働き妻がクリーニング屋でパートしてるとわかるとまた考え方も変わります。
彼らは仕事をしていたのです。
しかし、それでも自分たちの稼ぎだけでは生活が成り立たない。
それが格差社会でもあるのです。
そして彼らの雇用形態、日雇い派遣やパートタイムという非正規雇用の脆さなどについても本作では描かれていましたね。
派遣労働者は現場で怪我でもしようものなら詰んでしまう。
パート労働者は人員削減の憂き目に合えば従いそれによって詰む。
今の非正規雇用における実態をまざまざと映し出す作品でもありました。


善悪の基準についてを委ねるシーンとして印象深いものとしてはネグレクトを受ける幼女を治が家に連れ帰り家族として育てる事になります。
そして実の家族同様に彼女に接していく事によって彼女は自分の居場所を作っていきます。
彼女にとっては実の家族の元で暮らすよりは幸せに見えるのですが、しかし言うまでもなく如何なる事情があるとは言えよそ様の娘を勝手に連れ出していけばそれは誘拐です。

そこで初めて我々に向けての問題提起がなされます。
後半の展開からはまさにその問題を我々はどの様に解釈するのかが問われていき、是枝監督からの宿題に我々は思いを巡らせていく事でしょう。

さて、そんな本作ですが特徴的なポイントをいくつか押さえておきましょう。

何と言っても本作はキャスト陣の演技が見ごたえあります。
リリー・フランキーはじめ安藤サクラ、松岡栞優、樹木希林などいわゆる東京下町の決して人の目には届かない低所得層一家の雰囲気を見事に表していました。
二人の子役の心理的機微を表す演技も見事でした。
更に彼らが暮らす家の作りが独特な雰囲気を醸し出していましたね。
部屋の中もそう、お風呂もそう。
めちゃくちゃ汚ないんですよ。
だけどそれがかなりリアリティあるんですよね。
カメラワークひとつ取っても暗めに撮ってあり、その暗さが家族の暮らす家と絶妙に相まっていてあたかも実在する家族の姿を追ったドキュメンタリーを見ているかの様でした。
彼らが食べる食事もまた然りで決しておいしそうだとは思えない料理でありながらそれがめっちゃうまそうに見えてくる。
お肉屋さんで買ったコロッケをインスタント麺に入れて食べたくなる事間違いなしですよ(笑)

決して裕福ではない家族のリアルを追求して作られた事が伺える『万引き家族』。
見てスッキリする映画ではありません。
しかし、見た人誰もが現実と向き合いそして社会に潜むあらゆる問題に対して一考の機を得る作品となっています。
今の時代にこそ多くの人に見て頂きたい。
そんな一本です。
あなたも是非劇場でご覧下さい。