きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

北の桜守

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女優・吉永小百合の120作目となる映画出演作で、吉永主演の「北の零年」「北のカナリアたち」に続く「北の三部作」の最終章に位置付けられるヒューマンドラマ。吉永と堺雅人が親子役で共演し、「おくりびと」の名匠・滝田洋二郎監督が、戦中から戦後にかけて極寒の北海道で懸命に生き抜いた母と子の約30年にわたる軌跡を、ケラリーノ・サンドロヴィッチが演出を担当した舞台パートを交えながら描いた。1945年、樺太で家族と暮らしていた日本人女性・江蓮てつは、ソ連軍の侵攻によって土地を追われてしまう。夫が出征し、息子を連れて北海道の網走にたどり着いた彼女は、過酷な環境や貧しさと戦いながら息子を必死に育て上げる。71年、てつの息子・修二郎はビジネスで成功を収め、15年ぶりに網走を訪れる。たったひとりで夫を待ち続け、慎ましい生活を送っていた年老いた母の姿を見た修二郎は、母を引き取り札幌で一緒に暮らすことを決めるが……。
(映画・com より)

すっかりシネコンも春映画公開で賑わってますね。休日のシネコンは学生や家族連れの姿で朝から大盛況でして、2月のあの落ち着いた雰囲気が懐かしくも感じます。
そんな中、春休みとは全く無関係であろう本作。
客層の中心はもちろん人生の大先輩の皆様方でした。
劔岳-点の記-』(2009)や『あなたへ』(2012)、山田洋次監督作の『小さなおうち』(2014)、『母と暮らせば』(2015)等過去にも同様の客層の作品は数々見て参りましたけど好きなんですよね。
これぞ日本映画!という感じで。

実はこれまで「北の三部作」は全く見ていませんでした。
三部作と銘打ってるという事はこの『北の桜守』、過去の「北の~」シリーズを見ないと話しが繋がってこないのかなと思い『北の零年』、『北のカナリアたち』を鑑賞。
しかし、全く別々の作品になるのですね。
勉強不足なワタクシではございますが、いずれも素晴らしい作品でした。
その意味では収穫でした。オススメですよ!

それはさておきこちらの『北の桜守』ですが、序盤から突っ込みドコロが。
1945年の樺太から始まるのですが、吉永小百合さんと阿部寛さんが夫婦役。
しかも小学生くらいの息子が二人居るんですよ。
設定としては30代という事です。
しかしいくら吉永小百合さんが実年齢より若くて美しいとは言えあまりにも違和感が拭えず阿部さんが息子、息子役の二人が孫に見えてしまいまして、まずそこに乗りきれない自分がいました。
余談ですが三部作の『北のカナリアたち』で里見浩太朗さんと吉永小百合さんが父子ですからね、こういうのは小百合映画あるあるで突っ込むのが野暮なのでしょうか(笑)

そして重要な場面を舞台演劇として上演する手法を取り入れております。
そこが評価の別れるところであり、文化的素養を問われる演出だと思うのですが、私的には少々しんどかったです。
ミュージカル映画が割と好きなので本来であれば受け入れる事が可能ではあるのですがいかんせん重厚感のある作風。
そこに舞台演劇場面が挿入される事によっていちいち集中力が削がれてしまうんですよね。
実写場面が良かっただけにそこが勿体ない印象でした。
後、現代パートである1971年のシーンでは篠原涼子さんが堺雅人さんの妻役として登場します。
しかし、これまた実年齢より若めの役どころなのでしょうね、どうしても若作り感が目についてしまうんですよね。
父親が中村雅俊さんというのもミスマッチな感じでした。
また、帰国子女という設定でしたが、英語の発音はあれで良かったのでしょうか?
しかし、他方ではそろばんを知らないというやや天然な姿も見る事が出来、『ごっつええ感じ』の時の篠原涼子を知る身としては思わずニヤリとしちゃいました。

それにしてもこの滝田洋二郎監督の作品は現在(とされる時代)と過去のシーンを振り返る技法が秀逸ですね。
昨年『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』を見た時にも感じましたが、フラッシュバックさせる技法が上手いので見ている側もその時代の世界観に投影させる事が容易に出来ます。
件の舞台演劇場面がなければより良かったのですが。

堺雅人さんの演技は非常に見応えがありますね。
とりわけ印象深いシーンが成功者となった自身の元に現れた一人の貧相な男。
この人物からかつて少年時代にいじめを受けていたのです。
社会的成功者となり身なりの整った自身の前にいるこのみすぼらしい元いじめっ子がお金を貸してほしいと懇願します。
土下座をさせくしゃくしゃにした万札を拾わせるのですが『半沢直樹』を思い出す様な堺雅人の真骨頂とも言える名演が見られます。

その堺雅人演じる修二郎の経営するスーパーマーケットの描写は興味深かったですね。
当初はホットドッグをプッシュしていたのですが、
母・てつの作るおにぎりの商品化に乗り出します。
賞味期限が切れたら即廃棄処分する等徹底した品質管理とホットドッグ、おにぎりに見られるマーケティング戦略などコンビニ黎明期を非常にリアリティたっぷりに描いていたのが印象的でした。

北海道の景色も素晴らしく映画としての見応えは確かにあります。
しかし全体的に見れば「良い映画ではあるが、物足りない」という感は否めませんでした。
この感じ、どこかで味わった様な…と思ったら去年見た『追憶』の鑑賞後に同様の心境に至ったものです。
鑑賞から一年近く経過し、『追憶』がどんな映画だったかと言うとどうも思い出せないんですよね。
つまりはっきり言ってしまえば心に残りにくい映画という事になります。
題材、脚本、演出面は悪くなかっただけにそこが惜しいところです。