きんこんのシネマ放談

映画をこよなく愛するきんこんが鑑賞した映画をズラズラっと紹介していく映画ブログ

聖の青春

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藤井四段の活躍により、将棋界への注目が高まった2017年。
それに先駆けるかの様に昨年11月に公開されたのが映画『聖の青春』
29才の若さでこの世を去った天才棋士村山聖の生涯を描いた伝記映画で主人公・村山聖を演じた松山ケンイチの増量も話題になりました。

私自身、将棋のルールすらしらない超がつくほど将棋素人ではありますが、将棋そのものというより村山聖の人物像にフォーカスを当てた作品の為、ストーリーも分かりやすく鑑賞の上での満足度も非常に高いものでした。

幼少時より病気がちで入退院を繰り返す村山少年。
そんな彼が将棋と出会う事により、その人生を変えていきます。
リリー・フランキー演じる師匠の元へ弟子入りし、本格的に棋士としての道を歩み活躍を続ける彼の前に現れたのが同世代の天才・羽生善治です。
羽生善治と対局したい、そして勝ちたい。
病を抱える身でありながら単身大阪から東京へ上京し、遂に羽生善治との対局までを迎える事になります。

本作を通して村山聖という人物を見ると、吉野家の牛丼が好きで部屋は汚く髪がボサボサでボソボソ喋る。
少女漫画『イタズラなKiss 』が好きなオタクで無論女を抱いた事がない。
酒癖が悪く仲間に絡むは師匠に暴言を吐くわ。
自分の七段昇進パーティーを漫画を読んでたからを理由に遅刻するわ師匠に引っ越しの手伝いをさせながらも本人は立ち会わないという無神経さ。
上京後、東京の将棋会館に馴染めず孤立するのですが、自分のコミュ障を棚にあげ、「東京の人間は冷たい」と他人のせいにする。

なかなかのグズっぷりです。

しかし、一芸に秀でた天才というものは自分の専門分野以外での能力が極端に劣り社会性に乏しいというのもよくある事です。
残り少ない人生を好きに生きるという彼なりの選択だったのかもしれません。

その一方、東出昌大演じる羽生善治は物腰も穏やかで口数こそ少ないものの品があると同時に王者としてのカリスマ性がある。
将棋以外の趣味が酒、麻雀、漫画の村山に対してチェスと紳士的なセンスをうかがわせる。
そりゃモテるわ、アイドルと結婚するわ。
非の打ち所のないエリート棋士として大変魅力的に扱われています。

それが結果的に主役を食ってしまってる感があり、もっと村山聖の魅力を引き出してくれてたらと残念な印象が残ります。

しかし、ひたすら打倒羽生に燃え、挑戦を挑む村山とその村山の才能を認め全身全霊で対局に臨む羽生には将棋を知らない私でも胸が熱くなる気迫を感じました。

「ただ私はあなたに負けたのが悔しいです。」

村山に敗北を喫した羽生の言葉が村山の才能への嫉妬と敬意を感じられ、羽生もまた村山の存在が刺激となっていた事が伝わります。

また、村山が羽生を食事に誘い二人で酒を交わすシーンも印象深く、会話が噛み合わず気まずい空気が流れる中、村山が発した言葉には重みがありました。

女性と恋愛をして結婚をしたい


病を抱え普通の若者の様な恋愛が出来ない。
その意味合いもあるでしょうが、女性との接し方がわからず不器用が故に恋愛も結婚もその生涯において出来なかった村山のいち青年としての無念さも含めた願望だったと思います。

この映画では村山が亡くなるシーンはありません。
病床に伏し、闘病の描写で涙を誘うのではなく、村山聖という男の生きた生きざまを伝える事を主題としているので、そういった構成は良かったと思います。

不器用ながらも将棋の道を生き、その生涯を全うした村山聖
彼が残したメッセージを感じて下さい。

聖の青春 [DVD]

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